土沖1

□青銅の涙
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「土方さん、この像泣いてるように見えやせんかい?」

「ん?言われてみれば確かにな。」

まだ首都が江戸にあった頃、ここには武装警察真撰組の屯所があったという。

今はその基礎と、彼らの慰霊碑と、主だった隊士の銅像があるばかり。

俺達はその銅像群の前に立っていた。

「…コイツ土方さんに似てますね。見た目も名前もべそっかきのとこも。」

「いや、俺こんなに柄悪くねぇから。てか、べそかきでもねぇから。」

それより…
並んだ銅像の一つを指差す。

「アイツはお前に似てるな。」

お、どれどれ。

近寄ってよく見てみると…
『沖田総悟 一番隊隊長』

「うわぁ…なんか怖えぇ。俺と同じ名前じゃねぇか!」

「コイツも泣いてんぞ!総悟、鼻水垂らしてらぁ!」

「うるせぇ、鼻水言うな!俺じゃないけどなんか腹立つ!」

建ち並ぶ銅像はどれも一様に、溶けて流れていた。

酸性雨のせいであろう。

ここ江戸は、一昔前天人に支配されてから、環境汚染により死の街となった。

今はようやく中和が進み、人が住めるようになったところ。

歴史の遺物をそのままに、過ちを繰り返さぬように……

シンボルとして、街全体が保存されているのだ。

そう、この街同様彼らは過去の遺物である。

武士はいなくなった。

武士道も廃れてしまった。

今では俺達もただの学生だ。

動けない、動かないただの青銅の固まりの中から、紛れもない俺達の分身を迎えている。

―どちらが本物か?

無論、肉体を持つ生きたアイツ等が本物であろう。

俺達は過去の亡霊に過ぎない。

青銅が見た夢に過ぎない。

ポツリ、ポツリと雨が降り出した。

僅かに酸を含んだ雨だ。

「やべぇ!傘持ってねぇ、行くぞ総悟!」

彼らは屋根を求めて、走り去って行った。

パタリ、と一滴頬に落ちた。

緑色の涙が頬を伝っていった。




END
 

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