恋言葉

□序章
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桜が満開に咲いている、並盛中の校庭の隅。

少年、沢田綱吉は其処に居た。


「凄・・・」


小学生の頃から下校途中に見ていた。

だが、近くで見るのは此れが初めてだ。

素直に感心する。


「桜、好きなの?」


後ろから声がする。

低い、低い声。

己の少し高めの声とは全然違う、低い声。

振り向くと、其処には全身黒い、と言っても黒髪黒目に学ランを着ているだけなのだが。

一瞬、綱吉は呆気にとられた。

―――此処まで綺麗な人が居るんだ・・・

舞い落ちる桜の花弁を少し鬱陶しそうにしている彼はとても様になっていて。

綱吉は見惚れていた。


「何」


視線に気付き、彼は綱吉を軽く睨む。


「い、いえっ!何でもありません!」


少し怯え気味になってしまった自分の反応に、綱吉は少し項垂れそうになる。


「そう」


彼は学ランを翻して校舎へと歩いていった。


「・・・名前・・・聞けなかったなあ・・・」


何故か頬が熱い。

というか顔全体に熱さを感じる。

ドキンドキンと心臓が五月蠅い。

綱吉は、もう桜を見る事を忘れていた。


「ツナ!帰るわよー!」

「あ、はーい!」


母親に呼ばれ、綱吉は駆けて行く。

学ランなんて着ているんだし、あんなに綺麗な顔立ちをしているんだ。

きっと、中学生活が始まったらすぐに見つかる。

其の時は、名前を聞こう。

綱吉は小さく頷く。

ギュっと拳を握り締め、綱吉は新しく始まる中学生活に胸を躍らせた。




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