おちか書物庫

夢見月に何想ふ
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大好きな人と喧嘩した。



ただ取り留めもない会話だったのに。
自分が腹を立てているのは今も変わらない。

大嫌いと言えるくらいには怒ってる。
だけど大好きだから そんなことは言えるはずもない。

大嫌いと言ってしまったら あの人は何を想うのだろうか?
大嫌いと自分に嘘を付いて言えたなら……………

大好きと言ってしまえたら あの人は何を想うのだろうか?
大好きと想いを隠すことなく言えたなら……………


黙れ自分!
考えるな!


こんな時に限って、心の片隅にひた隠す想いが邪魔をする。
彷徨う乙女心が心底憎らしい。
好きな人に苛立つのは
ああしてくれない。こうしてくれない。
ああして欲しい。こうあって欲しい。
身勝手な独占欲が自身を無意識に飲み込んでしまうから。

期待なんてしていない。
そんなの身勝手な利己心。
そんなこと分かってる。

分かっていても許せないのは、自分勝手な独占欲だ。


でも……………


理解しているはずの耐えるべき事。
時には我慢出来なくなることだってある。
数え切れない些細な出来事、すべてを許せるほど人間が出来てもいない。


我慢ばかりの恋なんて……………


この恋に どれほどの真実があるというのか。
打算の上塗りなだけ。
結果、辛い現実。

もうわからない……………


心を掻きむしり 無言の悲鳴をあげながら、隠し続けてゆくのが私の恋の形なのか?
そんな想いは、いつの日かいっぱいになって押し潰される。
想いを閉ざせば閉ざすほど溜め込んでしまう。
もういっぱいで潰れてしまう。
苦しくて 苦しくて心が悲鳴をあげている。
まだ大丈夫 まだ大丈夫と自分に言い聞かせながら
満たされない現実を絶え続ける。


私の気持ちがわからない……………


伝えてしまえたら、私は楽になるのだろうか?
伝えてしまったら、どれだけ失うものがあるのだろうか?

そして私は、言葉を………想いを飲み込む。
嫌というほど出し続けた結論。
そして私は、この想いを胸に秘め
そしてまたこのいっぱいになった想いで潰されそうになってゆく。

繰り返し 繰り返し 悟る。

期待なんてしてはいけないと。
希望や願いを当たり前のように諦め続けて。
与えられないものなんて期待してはいけない。
期待すればするほど辛くなってゆくだけだと。
傍にいることがそんなに大事なことなのかすらも
今の自分には、はっきりと答えが浮ばない。

何も出来ず、答えも出せず、ただ悪戯に時間(とき)だけが過ぎてゆく。
そんな自身がどうしよもなく嫌いだ。
だけど、想いを素直に言えず飲み込み続ける惨めな自分がもっと嫌いだ。
ありのままの気持ちが………恋心が邪魔をして口に出せない。


ただ好きなだけなのに
こんなにも辛いなんて


あの頃の愛した瞬間の
気持ちままでいられたら良いのに。


ワタシハホントウニスキナノ?


自分自身に投げかけた疑問。
はっとした。
唐突に真っ暗な不安が襲って、震える指先をぎゅっと握り締めた。


私は本当に先生の事が好きなの?
私は今でも本当に好きなの?
私は沖田先生が好きだと錯覚しているの?
二人をつなぐ絆は何だろう?


なんだか少し疲れた。
煮詰まっているのかも知れない。


優しいあの人は昔も今も優しいまま。
それは皆に分け隔てなく注がれているもの。

ほんの少しだけでいいから……………
私だけにください。
一瞬だけでもいい。
私だけにそれをください。



<続く> 2011.9.28
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