小説(朝菊)
□Crystallize
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顔に光が当たるのを感じて、仙女はゆっくりと体を起こした。
ひとつしかない窓からは、まぶしい朝の光が差し込んでいる。
「菊様、お目覚めになられませ。朝餉の準備ができております」
硬く、重い鉄の扉の向こうから、侍女の声がした。
菊は少し乱れていた服を直す。
「もう起きています。入ってきてもかまいませんよ」
「では、失礼いたします」
菊は、いつもと変わらない笑顔で侍女を招きいれた。
菊の笑顔を見ても、侍女はニコリともしない。
当たり前だ。
菊に会うものは皆感情を奪われているのだから。
笑顔を返してくれなくても、菊は絶対に笑顔を保つ。
そうしなければ、やってられなかったということもある。
何百年と同じ光景が繰り返されてきたのだから。
「いつもありがとうございます」
「・・・では、失礼いたします」
礼の言葉にも、何の反応も示さない。
最初のうちは、いつか笑いかけてくれるのではないか、と期待していたが、いまでは、それもあきらめている。
箸を取り、運ばれてきた朝餉に手をつける。
朝餉はとうに冷めていた。
まるで、菊の心のように。