小説(朝菊)

□Blue Ocean
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菊はただ上を目指して泳いだ。
暗いくらい海の中を一人で泳ぐのは少々不安なところもあったが、新しい世界をみられるのならば
そんな不安などどこかへ吹き飛んでしまう。
そして、ついに海の外へ顔を出した。



「やっと・・・ここが外の世界なんですね・・・」


幼いころから憧れていた海の中以外の世界。
それが今、目の前に広がっている。


「あの輝くものは、真珠・・・じゃないですね。
星、でしょうか」


空を見上げて、菊はつぶやいた。
そして、ふと兄の言葉を思い出した。



『いいあるか。絶対に人間に近付いてはいけないあるよ。もちろん姿を見られることなんて言語道断ある。捕まったら最後、生きて帰れることは無いと思うよろし』


耀さんがあそこまで言うなんて、人間とはどんな怪物なんだろう。
いくら聞いても、耀は詳しいことは教えてくれなかった。
結果、菊の想像の中の人間は相当恐ろしいものになっていた。


さて、これからどうしようかと考えていると、突然菊の後ろで大きな音がした。



「・・・くらげ?」



キラキラと光る不思議なくらげは、すぐに消えていった。


しかも、一匹だけではない。
次々に大きな音と共に空に現れては消えていく。
菊はどこから来ているのかときょろきょろとあたりを見渡し、そして気付いた。

一隻の大きな何かが水面に浮いていることに。


「あれは・・・船、ですよね」


人間が乗り、そして海の仲間たちを捕らえ、どこかへ連れて行ってしまうという恐怖のもの。


事前に耀に聞いていたため、これはすぐにわかった。
そして、それを見たらすぐに逃げろ、とも言われていた。が。


「見つからなければいいですよね」



自制心よりも好奇心の方が勝ってしまった菊は、
ゆっくりと船に近付いていった。






頭上に広がる黒い影にも気付かずに。
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