小説(朝菊)
□Blue Ocean
2ページ/6ページ
菊はただ上を目指して泳いだ。
暗いくらい海の中を一人で泳ぐのは少々不安なところもあったが、新しい世界をみられるのならば
そんな不安などどこかへ吹き飛んでしまう。
そして、ついに海の外へ顔を出した。
「やっと・・・ここが外の世界なんですね・・・」
幼いころから憧れていた海の中以外の世界。
それが今、目の前に広がっている。
「あの輝くものは、真珠・・・じゃないですね。
星、でしょうか」
空を見上げて、菊はつぶやいた。
そして、ふと兄の言葉を思い出した。
『いいあるか。絶対に人間に近付いてはいけないあるよ。もちろん姿を見られることなんて言語道断ある。捕まったら最後、生きて帰れることは無いと思うよろし』
耀さんがあそこまで言うなんて、人間とはどんな怪物なんだろう。
いくら聞いても、耀は詳しいことは教えてくれなかった。
結果、菊の想像の中の人間は相当恐ろしいものになっていた。
さて、これからどうしようかと考えていると、突然菊の後ろで大きな音がした。
「・・・くらげ?」
キラキラと光る不思議なくらげは、すぐに消えていった。
しかも、一匹だけではない。
次々に大きな音と共に空に現れては消えていく。
菊はどこから来ているのかときょろきょろとあたりを見渡し、そして気付いた。
一隻の大きな何かが水面に浮いていることに。
「あれは・・・船、ですよね」
人間が乗り、そして海の仲間たちを捕らえ、どこかへ連れて行ってしまうという恐怖のもの。
事前に耀に聞いていたため、これはすぐにわかった。
そして、それを見たらすぐに逃げろ、とも言われていた。が。
「見つからなければいいですよね」
自制心よりも好奇心の方が勝ってしまった菊は、
ゆっくりと船に近付いていった。
頭上に広がる黒い影にも気付かずに。