冬に咲く華

□冷たい手
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千絵Side


「う…あ…。」



頭が重い。



泣きすぎたのかな…。



「スク……アーロ……。」



また涙が溢れた。



「おや…どなたですか?」



「ッ!?」



声がしたため起き上がって腰にある氷月を……



「無い……?」



見渡せば美しい原っぱが続いていた。



「綺麗…。」



ゆっくりと歩を進める。



声のした方へと…。



「おやおや、貴女の様な方が何故こんなところに?」



気付けば目の前に同い年位の少年がいた。柔らかい風が吹いた。



「私を……知ってるの…?」



「えぇ。よく知っていますよ。」



「貴方は…誰?」



「僕の名前は六道骸です。よろしくお願いします、千絵。」



「あの、脱獄犯さん?」



「クフフ…その通りです。」



「…ここはいったいどこ?」



「夢の中…とでも言っておきましょう。」



「夢…か。」



「心配事があるようですね。」



「…。」



「教えてもらえますか?誰かに言ったら楽になるかもしれませんし。」




らしくなかった。



こんな事だけで自分の事を話すなんて。



でも誰かに聞いてほしかったのかもしれない。



誰かに慰めてほしかったのかもしれない。



「大事な人をね…守れなかった。」



「…。」



「もう少しで手が届くところだったの。でもどうしてか届かなかった。」



右手が震える。



いつも氷月を握っている右手。



それが届かなかった。



まるで自分自身を否定されたようにも思った。



「彼は生きていますよ。」



「え…?」



「大丈夫です。貴女の元にきっと彼は戻って来る。」



「…本当に?」



「えぇ。」



なんの確証も無い。



なんの根拠も無い。



でもその言葉に私はどれだけ安心したことか。



「おや、もう時間みたいです。」



「時間?」



「そんな不安そうな顔をしないで下さい。大丈夫、また会えますよ。」



骸さんの手が私の頬に触れた。



「冷たい…。」



「クフフ…千絵はとても温かい。」



「また…会えるんだよね?」



「はい、会えますよ。」



するとフッと意識が揺らいだ。



何かに引き戻される感じがする。



「もう大丈夫…私は闘わなくちゃ…。」



最後の涙が一筋頬を伝った。





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