モンスターハンター 蒼風の導き

□葛藤
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 ドスジャギィの狩猟から数週間後、シアたちは疲れを癒すために温泉へと来ていた。
 習慣になりつつある湯治を堪能しつつ、桶に入れ水面に浮かせたお酒を口に含む。
「はぁ〜〜。幸せぇ〜〜」
 その表情は狩りをしているときのキリッとしたものからは想像の出来ないほど砕けたものだ。
 もともと、シアはお酒を飲む方ではなかったのだが、つい先日温泉で一緒になった村人から教えてもらい、今では病み付きなってしまっている。
 その隣では、酒に付き合っていたジャスミンとミナトが、ほのかに顔を赤くして浮かんでいる。
「こういう、なんでもない時間って、すごく大切よねぇ〜〜。狩りは狩りで楽しいんだけど、幸せを感じれるのはこういう時間なのよねぇ」
 お猪口に入れていたお酒を一気に飲み干す。
 それほど度数の高いものではないのだが、当然一気に飲めばそれだけ酔ってしまう可能性は高くなる。
 だが、そんなことは関係ないといった様子だ。
 飲み終えてしまったのか、徳利はひっくり返しても一滴もお酒を落とすことはなくなった。
「あーぁ。なくなっちゃった。それじゃ、そろそろ出ようか?ミナト、ジャスミン」
 ご機嫌な様子で二匹に声をかけるが、彼らはお酒に酔ったまま水面に浮かんでしまっていて、返事に答える様子はない。
 二匹は顔を上にした状態で、お猪口を落とさないようにお腹の上で両手で持っている。見ようによらなくても、ラッコの姿に似ている。
 幸せそうな表情をしているので、なにかしらの悪戯をするのも可哀想になってしまう。
 二匹を起こさないように抱きかかえると、桶を片付け、徳利とお猪口を番台アイルーに返すと、ユクモノ胴着を装着して家に戻る。
 寝床に二人を置くと、起こさないように気を付けながら家を出て商店へと向かう。
 シアたちがドスジャギィを狩ってから、ユクモ村に訪れる商人の数が少しだけ増えているように感じる。
 モンスターの脅威も少なくなり、ユクモノ温泉を目当てに訪れる湯治客が増えたことも関係しているのかもしれない。
 前にもまして活気の出てきた市場を見渡していると、自分のしてきたことを少しだけ誇らしく思う。一方で、この人たちをガッカリさせないようにしなければと、身が締まる思いもしている。
「おっ、シアさん。今日は何か買っていくかい?」
「ううん。まだ食料はたくさん残ってるから、今日は良いわ。また、今度来るわね」
「そうかい。なら、これをもっていきなよ。今日届いたばかりの新鮮な桃だよ」
「えっ?そんな、悪いわよ」
「良いから良いから。受け取ってくれよ。これだって、シアさんたちがドスジャギィを討伐してくれなかったら届かなかったものなんだから」
 多少強引な形ではあるが、シアは商人の好意を受けて桃をミナトたちの分も含めて三つ受け取ることにした。
 そのまま食べても美味しいというので、皮のままかぶりつくと、桃特有の甘みが口の中に広がる。
「うん。美味しい!」
「だろ?今日はサービスしたけど、今度からは買いに来てくれよな」
「うん。また、新鮮な果実が届いたら教えてね」
 手を振って店を離れると、すぐさま次の店の店主に捕まる。
 いつもは世間話だけなのだが、今日は特にみんなの気前が良いように感じる。
 市場を抜けるだけで、シアはたくさんの店で引き止められて、少しずつではあるが頂き物をしている。
 気付けば、シアの腕の中にはたくさんの食料や民芸品でいっぱいになってしまった。
 シアのもたらした経済効果だと村人たちは判断しているが、シア自身はハンターとして当然のことをしただけなので、ここまでいろいろなものをもらってしまうと、返って申し訳ない気持ちになってしまう。
 とはいえ、人の好意を無碍に出来ない性分なので、今の状況に陥ってしまっているのだ。
 荷物を置きに帰るか、このまま用事を済ませてしまおうかと考えているときだった。
「シアさん、少し休憩していかれませんか?」
 村長に声をかけられた。
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