小説ですよ〜
□この声が枯れるまで
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その日も、特に何もない普通の日だった。
いつもの時間に起きて、朝食を食べて登校する。学校に到着すれば、先生たちの授業を適当に聞き流す。休み時間になれば、仲の良い友達と雑談する。
そして、放課後になれば親友と呼べる友達の長瀬巧と連れ立って帰路に着いた。
家が隣ということもあって、俺と巧は小さい頃から一緒に遊んでいる。
友達というより、兄弟に近い存在だ。
ちなみに言っておけば俺が兄貴にあたる。巧は、かなり落ち着きがなく、面倒を起こすことが多く、その度に俺が対処してきたのだ。
今、隣を歩いているからといって、油断すればいつの間にか消えているということもあり得る。
確認のために横を向くと、お約束とばかりに巧の姿はなくなっていた。
「………またかよ」
呆れたように首を振り、歩いてきた道を戻りだした。
今、俺が歩いているのは、俺たちが通う高校から徒歩五分の所にある商店街だ。
それほど大きくはないが、小さくもない。
今は、学校帰りの学生と夕食の買い物に来ている主婦でごった返している。
同じ高校の学生もたくさんいるが、俺は迷うことなく歩き続けた。
思った通り、巧はいつものように楽器を売っている店のショーウィンドーの前で、食い入るような目付きで飾られているギターを見ていた。
もう馴れてしまったことなので、別に怒る気も起きない。
無言のまま巧の隣に並び、一緒になってショーウィンドーの中を見る。
そこにはバンドでよく使われている、ドラムやエレキギター等が飾られている。
だが、そういうものには目もくれず、巧は一心にギターを見詰めている。
「……俺たちには無理だって。いい加減に、諦めたらどうだ?」
ため息混じりに言うと、巧も大きなため息を吐いて肩を落とした。
「だよなぁ。……ごめんな。凜」
「いつもの事だから、構わないよ。……さて、早く帰ってあそこに行くぜ」
「……あぁ」
子供のように笑い、巧は早々と走り出した。
まったく。ガキだな。いつまで経っても。
ショーウィンドーの前でしょんぼりしていた時からは想像出来ないほど笑い、巧はどんどん小さくなっていく。
その距離が開くと、巧は俺を待つために必ず立ち止まる。
そう。いつもの日常だ。なんの変化もない、有り触れた日常だ。