小説ですよ〜
□約束
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「男はな、絶対に守らないとダメなものがあるんだぞ?」
親父は、凄く厳格な人間だった。
昔気質の料理人で、腕前は確かだったけど、他人の意見など関係なく、自分の信じた道を突き進むような人間だ。
当然のように、母はとても苦労していたと思う。
だが、愚痴なんて一切零さずに、父の言うことを聞いていた。
そんな父が、俺はあまり好きではなかった。
確かに、優しいときもあったし、褒めてくれることもあった。だが、それ以上に𠮟られて、殴られることの方が多かった。
小学生の高学年になった時には、何度も父と喧嘩をした。
だが、大人対子どもだ。勝敗は明らかだった。何度も、返り討ちにあったのは、言うまでもない。
それでも、父との喧嘩を止めなかったのは、ある種の意地だったのかもしれない。
父に勝ちたくて、父の得意な料理を始めた。
父に負けたくなくて、学校の図書室や図書館で料理の本を借りては、勉強していた。
包丁の使い方を誤って、指が絆創膏だらけになったのは、一度や二度ではない。
その甲斐もあったのか、中学生になる頃には、母を上回るほどの腕前になり、家での炊事担当はいつの間にか、俺になっていた。
最初は文句を言っていた父も、次第に何も言わなくなっていた。
子ども心に、父が黙って料理を全て平らげていたときは、心の中でガッツポーズをしていたものだ。