小説ですよ〜
□二人の合図
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目の前には、キミの大きな背中がある。
いつもはあまり気にしなかったが、こうして同じコートに立つと、こんなにも大きくて頼もしいものだったんだと感じられる。
「………大丈夫?」
振り返ったキミの声は、私のことを心配している声色だったけど、その意識はネットをはさんだ相手に向けられている。
相手に対して、キミは静かに闘志を燃やしているのがわかる。
「うん。大丈夫だよ」
精一杯の痩せ我慢で微笑んでみせる。
本気で勝ちたいと思っているキミに、弱いところは見せられないもんね。
まだ、心配そうにしているキミの隣を通り越して、サービスラインギリギリに構える。
キミが同じように後ろで構えるのを待って、相手がサーブを打つ構えを取る。
ミックスダブルス。
男女がダブルスを組み、試合をすること。
一般的にあまり知られていないけど、公式戦も行われているし、世界戦だってある。バドミントンの世界ではあまり珍しいものではない。
高校生活最後の大会に、思い出作りという名目でバド部全員で参加した大会で、私はキミと組むことになった。
キミは、部活動のときから無口で、何を考えているのかわからなかった。
そんなキミとダブルスを組むことになって、不安だらけだったけど、今思えばダブルスが組めてよかったと思える。
相手のショートサーブをネット際に落とす。
本当はロブを上げたいけど、相手の男性のスマッシュはかなり強力だから、あまり打たれたくない。
相手の女性も、同じことを考えているのか、ヘアピンで返してくる。
それは予想できていた。ネット擦れ擦れのシャトルをプッシュで攻撃に変える。
ネット前にいた女性の脇を抜いて、後ろの男性の足元に向かうシャトルを、男性は難なくロブで返してくる。
「ふっ!!」
短い声が聞こえて、パンッという鋭い音が聞こえた。
相手は一歩も動けない。
それほどまでに、キミのスマッシュは速かった。