DR NL

□壊れる前に壊してしまおう
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とある日のとある、一日。





「あ、ちょっと待って下さいって!」

「いやいやいや、待てんのう」

「そうだぜぃ?」

「あっははははは!そのまま朽ち果てるが良い!」

「、あああああああっ!死んだあああ!」





がしゃん、と音を立ててゲームのコントローラーが赤也の手から落ちる。
私たちは口元をにやりと吊りあげてその様子を見ていた。



「ちょっと、ひどいっすよ先輩達!なんで3対1なんスか!」

「え?いやほらさ、赤也は格ゲー好きだから大丈夫かなって」

「無理っスよ!」



げらげらと、笑い声を立てている丸井とまだにやりと笑っている仁王と、泣きそうな赤也。
そして、私。

とても居心地のいい空間である。




「あ、おいおい赤也。これ壊れちまったんじゃね?」



丸井が、さっき赤也が落としたコントローラーのボタンをポチポチと押す。
けれどその行為から発せられる信号はゲーム機には届かず、まるでそのコントローラーはゲーム機から見放されたような感じだった。
丸井はそんなコントローラーとゲーム機との唯一の繋がりを、一瞬にして断ってしまった。
要するに、ケーブルを引っこ抜いたのだけれど。

私にその光景は、とても残酷に見えた。




「あーあ、赤也ちゃんはいけない子じゃのう」

「な、も、元はと言えば先輩達のせいじゃないっすか!」

「でも落としたのは赤也だよ」

「!
……すんませんでしたっ!これでいいんでしょっ!」

「ははっ、そうすねんなよぃ!」



仁王が笑っている。丸井も笑っている。赤也も笑っている。
私は、なんだか笑えなかった。

怖い。というかなんというか。




「ねえ」

「ん?」

「私もあんな風に壊されて、無視されて、引き離されるのかな」

「は?」

「急に何言ってんだよ」

「ど、どうしたんスか?先輩…」

「頭がおかしくなる程に、怒っとるんじゃろ」

「え、」


「怒ってなんかないし悲しんでなんかないし苦しんでもいないんだから。
でもでもでも、なんだか駄目なの嫌なの怖いのしんどいの辛いんだよ」



なんだろう。何だろうこの不安。
ああ、そうか、不安か。不安なのか私は。

離れるの?いつか。壊れるの、いつか?引き離される?嫌われる?無視される?



「ああ、そっか。
なら、そうなる前に、だよね?」

「え、ちょ、――――…







壊れる前に 壊してしまおう





(関係を、存在を、感情を)
(すべてが壊れるその前に)
(壊れる可能性の有無すらも)
(すべて壊してしまいましょう)



――――――――――


オリオン。様提出。

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