★長編★
□fascinate
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―それは、月の綺麗な夜だった。
キラキラと、キラキラと。
夜空の星以外にまばゆく輝いているのは、色とりどりのネオン。
その平々凡々とした地名にもかかわらず、都心にもヒケをとらない一大商業地を抱えている並盛の夜は、連休を控えた今夜、いつも以上に騒々しく華やかだった。
深夜を過ぎても人通りは絶えず、そろそろ終電の時間だというのに、駅前週辺のかしましさは一向に収まる様子もない。
して、そんな騒がしい夜には当然、雲雀御愛用のトンファーも大活躍だった。
無駄に群れる草食動物を咬み殺し、週末の夜に乗じて違法行為を働く馬鹿どもを咬み殺し、わざわざ別の町からやってきては、雲雀の町で我が物顔に振る舞う不作方なよそものたちを咬み殺す。
そうして次々と粛正していくたびに、草食動物たちの血が飛び散るおかげで、今夜はトンファーが乾く暇もない。
それでもまだ仕事は終わらないとばかりに、雲雀は人通りの少ない裏路地を歩いていた。
肩から羽織った誇り高き風紀の証である学ランをなびかせて、夜風にさらさらと揺れる洗いざらしの黒髪。あれだけの人数を叩きのめしてきたというのに、返り血ひとつ見当たらない涼しげな美貌。
闇に浮かぶその貴族的な面立ちは、ひどく冷ややかに端正だ。
稀代の匠が精根こめて筆を入れたような、どこまでも冷淡に美しい面立ち。いつもほとんど動くことのない無表情。
だけど、今夜はこうして馬鹿な獲物が狩り放題なものだから、決して機嫌は悪くなかった。
しかも、先ほど腹心の草壁からかかってきた一本の電話が、さらに雲雀を楽しくさせている。
―今夜並盛のあちこちで、突然意識不明になる男女が続出している、と。