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□甘いのはどちら?
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よく晴れた日の午後。
そろそろホスト達も出勤してこようかという時間に、外出していた店長が大きめの紙袋を提げて帰ってきた。
随分とまちの広い紙袋には、洋菓子店のものと思われる名前が印刷されており、
中には、大きめの箱が入っているようだった。
「ケーキか何か、買っていらしたんですか?」
「うん。ちょっと噂に聞いてたから、気になってたのよね〜。
近所まで行ったついでによってみたの。」
そう言って、嬉しそうに微笑みながら箱を開けると、
中には、色よく焼かれたシュー生地に星のように砂糖が散りばめられた、見るからに可愛らしいシュークリームがずらりと並んでいた。
「どうせなら、あいつらにも食べさせたいと思ってね〜。
よかったら、憂夜さんも一緒にどう?」
店長らしい心遣いに頬がゆるむのを感じながら、
「ありがとうございます。では、お茶を淹れますね。」
返事をして、彼女の座るソファーに背を向けた。
女性は、甘いものが好きな人が多いが、彼女もその例から漏れないらしく、箱を覗き込みながら「おいしそうよねぇ。」などと呟いている姿は、本当にほほえましい。
「よかったら。先に召し上がっていてください。すぐ、用意できますから。」
笑みを浮かべながらそう告げると、恥ずかしそうにこちらをチラリと見て、
「じゃあ…お先にいただきます。」
そう言って、シュークリームを1つ箱から取り出し口へ運んだ。
「うん、おいしい〜。」
幸せそうに呟く姿に、自分まで満ち足りた気分になる。
「それにしても、さすが空也よねぇ〜。
bPホストっていうのは、こんな事まで知ってるのねぇ〜。」
「…空也からお聞きになったんですか?」
不意に漏れた、彼女の口からはあまり聞きたくない名前に、思わず反応してしまう。
「うん。この前、偶然会って…ここのお店、カフェがあるから、一緒にお茶でもって誘われたときに聞いたのよ。」
「行かなかったんだけどさぁ…私を誘うなんて、空也も物好きよねぇ。」
そう眉をひそめながら付け加える彼女に、安堵したものの、
いつから、この程度のことで心を乱す狭量な男になったのかと自分が情けなくなった。