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□オモイシル(晶)
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突然の問い掛けに、手に取ろうとしていたカフェオレボウルを危うく落としそうになる。


正直、彼氏できた?くらいの質問は想定していたんだけど。

それが、一足飛びに憂夜さんまで辿り着いては驚くなと言う方が無理な話だ。


「なっ、なんで憂夜さんが出てくるのよっ?」

「あれっ、違った?」


インディゴへは、貴子がドイツへ引っ越す直前に一度訪ねて来ただけだったはず。
それだって、昼間、突然だったから、ホスト達には会わずじまいで…。
私だって外にいて…店にいた憂夜さんから電話が…?

「ゆ…憂夜さんから、何か聞いたの?」

彼は基本的に無駄な事は話さないし、私達の関係だって、許可なしには妹にすら話さないだろう。
でも、時々、さらりと恥ずかしくなるような事を口にする。
それこそ、身についたものは忘れないというやつかもしれない。

「お姉ちゃんには余計なお世話だろうけどさ…心配だったから、お店に行った時に、仕事のこととか、今までの事件のこととか聞いたんだよね。」

当然だとは思う。
司の事があってホストクラブの店長になり、その上、やたらと事件に巻き込まれている。
心配するなとは言えない。


「そしたらさぁ、お姉ちゃんの事、店長として立派だし、ホスト達にも慕われているって…。」

何だか、自分がいない所でそんな会話がされていたなんて、気恥ずかしいことこの上ない。


「それにね…憂夜さん?
一見クールなのに、お姉ちゃんの話してる時、すっごく優しい顔して嬉しそうに褒めてたんだよねぇ。
事件のこともね、『何かあっても絶対に私が側で守ります』って、真剣に約束してくれたし。
てっきりそういう関係かと…。」

言いながら、私を見ていた貴子が耐えられないという様子で笑い出した。


「お姉ちゃん、耳まで真っ赤だよ。
まさに茹蛸だね。」

「うるさいわねっ。姉をからかわないでよね。
カフェオレごちそうさまっ。」


あまりの恥ずかしさに席を立った私の背中に貴子が言った。

「いえいえ。こちらこそごちそうさまでした。」






こんなに離れた所でも
貴方の「想いを知る」なんて。







end
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