戦国無双book
□狐と竜
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くのいちは夜明け頃に米沢城に来た。
話によれば、ここまでの道中、一度も寝ていないらしい。
だから、一日くらい城にいても構わないと思っていた。
─一日経った今。
城主である政宗は、いつまでもくのいちの相手をする訳にもいかず、困り果てていた。
「あ、ホラ、また"馬鹿めっ"って言った!」
そんな政宗とは対照的に、くのいちは愉快そうに笑う。
それは、嫌いではない。
…不思議と。
「くのいち、貴様もそろそろ帰れ。
儂にはせねばならぬ事がまだ山のように残っておる」
政宗は少々疲れた笑みでくのいちに笑い返し、「よっ」と立ち上がった。
それとは反対に、くのいちは胡座を掻いてむすくれた。
「えー!つまんない…
いいじゃん、どうせ軍議かなんかでしょ?
さぼっちゃえば?」
「馬鹿め、軍議を怠けるわけなかろう。
貴様も十分休養したじゃろう、さっさと帰れ…
でなければ、貴様の主に言い付けるぞ!」
「言い付ければいいじゃん、幸村様優しいから怒らないもんねー!
あんたと違って、幸村様は心が広いのよ〜」
「だったら、上田に帰り真田にで構ってもらえばよかろう!」
「だぁって、幸村様も"忙しい"って言って相手してくれないんだもーん!!」
くのいちはぷぅと頬を膨らませた。
政宗は眉間に皺を寄せ、口端をひくひくとひきつらせている。
最早、笑顔ではない。
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