戦国無双book

□西瓜
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左近は足音を立てないようにゆっくりと、
ゆーーっくりと歩く。

三成は未だ何も言わない。
動いてすらいない。

だが左近は、三成の瞳が何を見ているのかわかった。

幸村から視線を外した後、くのいちを横目に、
左近へと視線を持っていった。

今、一挙一動を三成に見られている左近は、気が気でない。

「――? 左近殿、なぜそのように
ゆっくりと歩いているのですか?」

幸村の声に、左近は内心飛び上がった。

左近は首を機械的に動かし、幸村と瞳を合わせる。
幸村は、左近に微笑みかけた。

左近はぎこちなく微笑み返す。
そうしない訳にはいかない。

それに、微笑み返そうが、返さまいが、
結局は三成に半殺しにされる運命なのだ。

「…あ、左近殿もしかしてどこか痛いのですか!?
気付くのが遅れて申し訳ありません、
私がお手伝いしましょう」

幸村はくのいちを離して (まだやってたのか)
左近に歩み寄ろうと、一歩を踏み出した時だった。

「にゃはっ♪」

くのいちが幸村に足を引っかける。
恐らく、この後の展開を緻密に計算しての行動だろう。

「うわっ」

案の定、幸村はくのいちの足につっかかると、
反射的に幸村を支えようとした
左近の腕の中に収まった。


数秒の沈黙


幸村は慌てて左近から飛び退いた。

「す、すみません左近殿!!
こら、くのいち!そなたも謝らぬか―――」

ほぼ顔が死んでいる左近をよそに、
幸村とくのいちの言い合いが始まる。

言い合いと言っても、
幸村の説教をくのいちが軽くあしらう程度だ。



「左近」



何十回も、何百回も聞いた呼び声。
いつもならすぐに振り返るのだが、
今回は別だ。

聞こえないフリをして部屋を出ようとする。






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