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□第四話 心の距離
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「今日、やっとレコーディング目処がついたんだ。」

楽斗さんちょっと声、変じゃない?

「そうなんですか?良かったです!」

「名無しさんちゃんと食事、行きたいなぁ…」

かれこれ彼とは、2ヶ月ほど逢ってなかった。
なんだか気まずいっていうのもあったし。

お互い忙しかったしね。
楽斗さんはスタジオに籠りきりで
私も別のスタジオに籠りきりで
最近、また薬が増えてしまった。
無理がたたったのか、
朝すぐに躯を起こす事が出来なくて。
喘息ってこうだからやなのよ。
リラックスしてる状態から
起きると、咳き込んだり、節々が痛かったり。

「今日、これから打ち上げなんだ。」

「打ち上げ?」

「目処がついたから、その打ち上げ。」

「目処がついたことのお祝い?」

「そうだよ?フフ、早くお酒飲みたーい」

「クスクス…楽しんできてください? 
 私はまだまだ終わらなそうです。」

楽斗さんも頑張ってるんだ。
私も、体調悪いっていってられないな。

「…それじゃ、また連絡するね。」

「はい。頑張って下さい。」

「名無しさんちゃんは頑張りすぎないように!」

「楽斗さんもですよ!」

「クスクス、りょーかい。」





そういって電話を切ったのは3時間ほど前。
ん…ん?ふぅー2時?
はぁ〜〜あ。

曲のイメージを渡されて今日は家で土台を作る。

終わらなぁ〜い(涙)
パソコンでカタカタやったり、
楽譜にカリカリやったり、
リラックスして頑張ってるけど、
今回はなんと言うか…自分の作りたい物が
頭にはあるのに、そこに薄いもやがかかってる。
足りないパーツは何だろう?そうやって考えてみるけれど、
なかなか、どうしてか…。
一向に進みません。
曲のイメージをクライアントから伝えられる。
主にピアノやpcで作曲を進める訳だけど。
今回は難産になりそうです。


ピンポーン

2時です。なんという事でしょう?
来客です。ちょっと怖いなぁ。
モニターがあって良かったです。

「は、い?」

「名無しさんちゃん?来ちゃった☆」

はぁ…そんな気はしてたんです。
だってこんな時間に訪ねてくるのは
この人か、犯罪者だけじゃないですか?

「何かあったの?」

お酒が入ってるせいか、赤い顔して楽斗さんが言う。

「どうしてですか?」

「すんごい、疲れてますって顔してるから。」

仕事が行き詰まってるのもそうだし、
あなたが来たからですよ!

「ちょっと、仕事が進まなくて…
 なんというか、イライラ?してたかもです。」

「そうなんだ?」

「で?」

「え?」

「あなたがココに来た理由。聞いてもいいですか?」

深夜2時過ぎ。進まない仕事。
私はとってもイライラしてます。
俗にいう、人に当たってるって奴です。

「お酒飲んでてね、一段落したら千紗ちゃんに逢いたくなっちゃって」

一目見たら帰ろうと思ってたんだ、そういって楽斗さんは立ち上がった。
その瞬間。

「ッキャ!」

楽斗さんがぐらりと揺れて、地面に倒れた。

「楽斗さん!?」

真っ赤な顔をして、はぁはぁしている楽斗さんのおでこに手を
当ててみると。

…高熱です。
それも、かなりの。
高熱出したときの苦しさなんかよく分かりますよ。

そんなわけで。

仕方ない。意識が朦朧としてる楽斗さんのほっぺたをぺしぺし叩いて、

「ほら、起きて下さい!ベッド行きますよ!」

肩を貸して、ずるずる引きずって。
ものすんごい疲れた。これだけで。

私のベッドで躯を丸めて眠る楽斗さん。

「寒いですか?暑い?」

「……さ、むい。」

寒いってことはこれからまだ熱が上がるってこと。
えっと、こんな時は、
毛布をかけてあげて、水分の補給に気をつけてと。

「楽斗さん?熱冷まシート貼りますよー」

こんなものいくらでもあります。
あら、こんなものつけても
男前はかわりませんねー(笑)

水分はー冷蔵庫ですね。
取りにいかなくちゃ。

そう思って立ち上がって部屋を出ようとした。

「…何処いくの。」

むっくり起き上がって、楽斗さんがこっちを見ている。
うわっ、なんかちっさい!小さい小学生っぽい!

「水取りにいくだけです。すぐですから、横になっててくださいね?」

「…っ僕も、いく。」

風邪で寝込むときは、妙に人肌とか
人の優しさに触れたくなるもの。
楽斗さんもそうなんだ、微笑ましいね(笑)

「水、取りにいったらもう何処にも行きませんから。
 いい子にして眠っててください?」

いっつも驚かされる彼に、ちょっとした仕返し。
子供扱いしたって、怒られないでしょ?
まだまだおつりが来ます。

頬を膨らまして、真っ赤な顔で
怒ってますけど。
あらぁ〜、全然こわくなぁ〜い。
かーわーいーいーって言う奴ですか?これは。

水と、ゼリーと、
あとパソコン持って…

楽斗さんの所に戻る。


「のどかわきませんか?」

「…う、ん。」

「お水飲みましょう、」

ベッドに座って楽斗さんを起き上がらせる。
ごくごく水を飲む楽斗さん。
私の中のちっぽけな母性本能がむくむくと育ってます(笑)

「なにか食べたい?」

「…食欲、ない。」

「寝ましょう。楽斗さん。無理しすぎちゃったんですよ。」

「名無しさんちゃ、んは…一緒に寝て、くれないの?」

勘弁してください。おとなしくねてください?

「私は、ここに居ますから。
 …ほら、目、閉じてください。」

手を握りながら、頭をなでなでする。
お母さんにこうされると、
とってもうれしかったから。

「ふぅ…、ん。」

「おやすみなさい?」

「すー…」

薬とか、飲んでないけれど、
寝るのはやいね(笑)

さて、仕事。
パソコンのカタカタ音で起きてしまうといけないから、
ちょっと遠くにいすを置いて
膝の上にパソコンおいて
イメージを膨らませる。

ちょっと今回は、恋愛の要素が歌詞に入る曲。
私の曲を聞いてくれてる子たちは
私と、同じ世代の女の子たちが多い。
ファンレターを初めてもらった時は、
本当に号泣した。
辛かった時期もあったけれど、
支えてくれてる人が、いるんだな。

頑張ろう。

今は作曲が主でコンサートはやっていないから
ファンの人たちに触れられる機会も無くなってしまった。
もうコンサートはやる気は無い。

「すー…」

あんな妖しい笑みを浮かべるようなお顔からは
想像もできないくらいの寝顔ですね〜。

少し、熱ひいてきたかな?

はぁ〜…んん…
眠い。
ちょっと進んだかな。

ふぅ、ちょっと一休み。


そう思って、目を閉じた。



ここ何処だ?
なんだか、優しい匂いがするなぁ。
久しぶりだよ、この感覚。

昨日、打ち上げ行って、
酒飲んでたらなんだか
名無しさんちゃんの顔が見たくって。

名無しさんちゃん、なんかイライラしてたみたい?
微睡みながら、フフって笑っちゃう。
可愛かったな、ちょっと不機嫌な千紗ちゃんも。

え〜っと、それから。
それから?

覚えているのは、ものすごくあったかいもの。
それから、ものすごくやさしいもの。
久しぶりに、柔らかいものに包まれる感覚。

えっと、名無しさんちゃんのベッド?
大きなため息を一つ、つく。
…良い匂い。

名無しさんちゃん何処だ?
僕は起き上がって、きょろきょろする。
あ、熱下がってる。

ん、居た。
名無しさんちゃん膝にパソコン乗せたまま、
堕ちてるね。
いつもの僕みたい(笑)

クスクス笑ってたら、
名無しさんちゃんがみじろきして、
あぁ、起きちゃった(笑)

「ふ、あぁ〜〜。あ、楽斗さん、熱大丈夫?」

そういって君は、手の甲で
僕の頬に触れてきた。

いや、あの、
ドキドキするんだけど…

「ん!大丈夫そうですね!良かった。」

いや、あの、熱、あがりそうです。

「ありがとね、名無しさんちゃん。」

「友達なら、当たり前です!」

相変わらず、君の中で僕は友達なんだね。

無意識に、
助けを求めていたのが
名無しさんちゃんだった。

本能にいきる男だな、僕も。

「なにか、食べます?」

「朝は、食べないんだ。何かジュースある?」

「えっと、グレープフルーツジュースならありますけど…」

「それ、いただけるかな?」

「えぇ、もちろん」

笑顔がまぶしいです、名無しさんちゃん。
今日も可愛いなぁ…

かっこ悪いとこ見せちゃったかな。
それでも、態度が全くかわらない君を見て、
心底安心する僕がいる。
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