long -2-

□第1章 生かされた理由
1ページ/2ページ

ここはどうやら病院らしい。
いや、病院にしては人が居ない。
彼女の存在しかまだ僕は確認していない。


僕は、生かされた。


でも、何故?

「あなたの供述を読みました。」

彼女の名前は松本名無しさん。
いや、それしか知らないけど。

ガタタッと椅子を引きずりながら近づいてくる。

「まずは、貴方が生かされた理由を説明します〜、よろしいですか〜?」
 よろしかったら手握ってくださいね、

そう言いながら手をぎゅっと握ってくる。
暖かい。

僕はもうしばらく人のぬくもりに触れては居なかった。
最後に触れたのは2年も前。

いや、殺すために触っただけだけど。

「よろしいですか?えっと〜ですね。」

ペラペラ紙をめくりながら白衣の裾を気にしながら喋りだす。

相変わらず躯は動かない。

「あなたは”死”に対する恐怖心がまったくありませんね?
 供述では『僕にとって死など無意味だってことさ』
 そうおっしゃいましたね?」

目を見ながら僕に話す。

「今、国は死刑廃止について実に大変な問題を抱えています。
 死刑を廃止するべきか、否か?
 死刑と同等の罰を与える事が出来ないか?死、以外に。」

すこしめんどくさそうに話す。

「いいですか?今から少し長いですよ?
 人を殺す事は人道に反し、野蛮であり、憲法第36条に反します。
 国家であっても人を殺す事は許されません。生かしておいて罪の償いをさせるべ     
 きだ。」

だから…?

「だから?って顔してますね。フフッ、これからが本題です。」

紙に顔を戻しながら、

「つまりは、死に対する恐怖が無い人間を死刑にしたとしても…
 無意味なんじゃないか?死をもって償ったとしても…
 意味をなしませんね。」

あぁ、そうだね…。

「私が受けた仕事は、死刑廃止への…実験です。
 生きて罪を償う方法を、貴方を通して探さなければなりません。」

「それ…僕に言って……言い、わけ?」

「375番、いえ、竹神貞次郎?」

「な、に…?」

急ににやにやと笑い出す名無しさん。

「これからよろしくです〜?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ