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□第四話 心の距離
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「大丈夫?」

昨日から疲れた顔をしている。
その事に気付いて話しを聞こうとはしていたのだが
なんせ体調悪くて(笑)

「音楽に対して本気か?って言われてしまって…」

「…なに、誰に?」

言った奴、まじで締める。
誰だ?そんな事言ったやつ。


「フフフ、そんなに怒らないで下さい。その人の言う通りなんです。」

どうやら彼女は聞いて欲しい様子だった。
溜め込んでしまうのは良く無い。

なら、僕がする事は一つ。

グレープジュースの入ったグラスを置いて
彼女の目を見て言う。

「じゃあ、話してよ。」


「聞いてくれますか?」


「勿論。」

あの…お話しにくいんですが…
と、目を伏せて名無しさんちゃんが話し始める。

「私は…こう…ピアニストの中でも色物って言う感じだったんです、もっと若い頃は。」


「うん、分かるよ。僕らの時もそうだった。」


僕らの時はXJAPANとかが先陣切ってたね。


「お嬢ちゃんがピアノでちょっと有名になって作曲か?って言われちゃって…。今もイメージは湧いてるんですけど…。曲がもやもやして来てしまって…。クライアントの方にも私のせいで迷惑かけてしまって。それなら私が曲を作らない方が良いんじゃないかな…って。」


「うん。」

根も葉もない噂を立てられたり、自分のやってる仕事をけなされたり、落ち込んでしまう要素はいくらでもある。
だけどね、

「今君はさ、足りないピースを別の何かで埋めようとしてないか?」

「…。」

まっすぐと僕の目を見つめてくる君はあまりに純粋で
成人していない少女の様にも見えた。

「ピースの足りないパズルの前で立ち尽くしても意味は無い。どうして周りを見渡してピースを探そうとしない?
君が逃げるって事を選択してもパズルはずっと完成しない。」


「…はいっ。」


「辛いと思う。けど乗り越えなくちゃ。君に依頼をして来た人を裏切るような行為はしてはならないよ。」


音楽の先輩として、ジャンルは違えど
通っている物は一緒なはずだから
ここはびしっと言わなければいけない。


「君の才能ぐらい、皆知ってるさ。だからそんな事言って来たんじゃないかな。それから…」

彼女の左手を包んで言う。

「自分がやって来たことや通って来た道ぐらい…
 君が信じて褒めてやらないと、可哀想だよ、自分が。」


「…はっい…。グズ…」


目に涙を溜めながら鼻をならす名無しさん。


「もう大丈夫?」


「…だ…いじょ…ぶ…。」


泣き顔をみられたく無いのか顔を無理に隠す。


優しい僕は顔をそらしてガラスをまた傾ける。


どうか乗り越えて。

君はこんな所で立ち止まる人じゃないだろう?
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