宝文

□花火
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ここに来てから随分と時間が経ったというのに、柳生は未だ自分から仁王の手を握れずにいた。

柳生が勇気を振り絞って手を握ろうとすると仁王が振り返り、結局握れず終いになってしまっていた。


もうすぐ、花火が始まってしまう。


焦る気持ちだけが、柳生をせかす。
このままなにもせずに終わってしまう。それだけはなんとしても避けたい。


柳生が意を決して仁王の手に手を伸ばした…その時だった。



「やぎゅ、見ろ!」

「っえ……?」



―――――ドンッ



「わぁ…っ!!」



空に上がった、一輪の花。
それに続いて、どんどんいろんな大きさの花火が次々に上がっていく。



「綺麗じゃな」

「そうですね……!!」

「でも、柳生の方がもっと綺麗ぜよ」

「……っ!?」

「なんて、ちょっとくさすぎたかの」



仁王が少し照れ臭そうに柳生から顔を背ける。



「仁王くん……」



(今なら手、握れるかもしれません……)



「やぎゅっ!?」

「今なら皆さん花火に夢中ですし……ね?」



ぎゅっと握る手に力を入れると、それに答えるように仁王も握り返してくる。



それがとても嬉しくて。



(やっぱり誘ってよかった……)



「柳生、」

「はい?」

「また来年も、ここに来ような」

「……っはい!!」



お互いの手は、繋がれたまま。



2人は空に上がる大輪の花を見つめていた。

























END.
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