宝文
□いつも側にいたいから
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部長の俺がこんなこと思うのはどうかと思うんだけど、俺も一応一人の人間なわけで。
そして一人の人間の前に一人の男なわけで。
それは、ある天気のいい日に
(早く部活終わって弦一郎に抱きつきたい…)
こんなに近くにいるのに、これじゃあ生殺しだ。
「う〜ん…」
「また変なことを考えているな、精市」
「蓮二、人をそんないつも変なことを考えてるみたいに言うなよ」
「実際そうだろう。また弦一郎絡みか?」
蓮二にはすべてお見通しらしい。
「まさか、蓮二も弦一郎を狙って…!?」
「馬鹿を言うな。俺には赤也がいる」
「うん知ってる」
蓮二はあからさまにため息をついた。
「弦一郎を盗撮した写真でも持っとけばよかったなぁ」
「言っておくが精市、盗撮は犯罪だ」
「冗談だよ、冗談」
「そうか。お前が言うとシャレにならないからな」
酷いなぁ、と返しながら軽く2,3回ラケットを振る。
そろそろ俺もコートに戻らないと、部員に示しがつかない。
「あと2時間だ。それまでは我慢していろ」
「はぁ〜い」
弦一郎の方をチラリと見る。
すると一瞬だけ、弦一郎と目があった気がした。
「……やっぱり弦一郎は可愛いな♪」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
今のであとの2時間なんて軽く思えてきた。
肩にかけていたジャージをベンチにかけ、そのままコートに入った。
* * * * * *
「――それじゃあ解散!」
号令と共に部員が散らばっていく。
俺もさっそうとその場を離れ、弦一郎のもとに向かった。
「弦一郎っ!」
こういう時にトレードマーク(?)の帽子は便利だ。すぐに見つけやすい。
部室の扉を開けようとしていた弦一郎が俺の方を振り向くやいなや、俺は弦一郎に飛び付いた。
「どわっ!!」
「あぁ、弦一郎〜っ」
「こ、こらっ!どさくさに紛れて変なところを触るな!!」
「いいだろ?ずっと我慢してたんだから。弦一郎だって我慢してたんでしょう」
「ッ!?」
弦一郎の耳元で囁くと、弦一郎の頬がいっきに紅潮していく。
か、可愛いっ!!
「あぁっ!!もうダメ!」
俺は耐えきれなくなって、弦一郎をその場に押し倒した。
もちろんまわりには、柳や他の部員たちもいる。
けどそんなの俺は気にしません(少しは気にしてくれby柳)!!
「おっ、お前たち!!見てないで助けんかぁっ」
「すみません、真田くん…」
「俺たちまだ死にたくないぜよ」
「うん、いい心がけだね!そのまま俺たちの邪魔にならないようにさっさと着替えて部室から出て行こうか!」
笑顔で促すと、皆がいっせいに荷物をまとめ始める。
「えっ、ちょ」
「お疲れ様でしたぁ〜」
「お前たち…」
「それでは真田くん、お気をつけて」
「ちょっと待たんかお前らぁぁぁっ!!!!」
その日弦一郎は美味しく頂きました。
END.