宝文
□花火
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「仁王くん仁王くん、」
「んー?」
「今度の花火大会、一緒に行きませんか?」
「わ、私から誘ってしまいました……!!」
仁王と離れ、一気に緊張の糸がとける。
仁王からはすぐにOKをもらい、今から浮かれる気持ちが抑えられない柳生。
まだ誘った時のドキドキがおさまらなくて、頬を触ってみたら熱をもっていた。
「せっかく一緒に行けるんですから…」
実は、柳生から仁王を誘ったのはある目的があるからなのだ。
しかし、それを実行に移せるかどうかは自分次第……―――。
なにはともあれ、花火大会が楽しみでならなかった。
* * * * * *
「少し張り切りすぎましたかね…」
花火大会当日。
花火大会定番の浴衣に身を包み、待ち合わせ場所に集合時間より少し早めに到着する。
花火大会と言うだけあって、やはり人は多い。
「屋台もたくさんありますし……どれにしようか迷ってしまいますね……」
「そうじゃのぅ」
「にっ、仁王くん!!」
いつの間にか柳生の隣に立っていた仁王も、柳生に混じって屋台を眺めていた。
「よぉ、柳生。やっぱ柳生は早いのぉ」
「よぉ、じゃありませんよ!!いたなら声くらいかけて下さい!」
「よぉ、じゃありませんよ!!いたなら声くらいかけて下さい!」
「おぉ、すまん、すまん。それにしても柳生、浴衣似合っとるのぉ」
「な、なんなんですか急に…っ!!」
心臓に悪いです、と心の中で呟く。
それに、よく見たら仁王も浴衣に身を包んでいた。
一瞬みとれそうになってしまって、あわてて頭を振る。
浴衣の間から見える鎖骨が、なんというかかなり色っぽい。
取り敢えずこの場にいても時間がただ過ぎていくだけなので、仁王と共に花火が始まるまで屋台をまわることにした。
「どこに行きましょうか?あそこで綿あめを売ってますよ。あそこでは金魚すくいを」
「まぁ待て、やぎゅ。順に回って行けばいいぜよ」
「そ、そうですよね。私としたことが…」
仁王がどこからまわるか言っていたが、柳生はすでに上の空だった。
なんせこの花火大会には、目的があるのだから。
(その目的を達成するまでは、気が抜けません……)
「柳生?聞いとるか?」
「え、あっ、はい!!」
「聞いてなかったじゃろ……」
「す、すみません……」
いきなり仁王に不審がられてしまう。
(いけない、いけない。これでは目的を実行できません)
できるだけ、いつも通りに振る舞うように意識しながら、仁王についていく。
その間、柳生は仁王の手ばかりを見つめていた。
そう、柳生の目的とは、今回のこの花火大会で、自分から仁王と手をつなぐことなのだ。
いつも自分がされる側で、する側にまわることは少ない。
だから今回こそは、と思っていたのである。
それにしても、なかなか自分から仁王の手をにぎることができない。
(仁王くんの手はすぐそこにあるのに……)
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