花帰葬

□白と雪と…
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君の記憶が戻る事を、

いつもいつも恐れてた…







だって、
記憶が戻ったら、君は僕にまた同じ選択肢を突き付ける



どれだけ"出来ない"と


どれほど"したくない"と



僕が叫んだとしても、諦めてしまった君はその選択肢を選んでしまう







でも…

もうその心配をする必要はないよね?








だって、


君の知らないところで、時は進んだ


いや、僕が進めた…





もう…君が犠牲になる必要なんてない






望んだ…世界








「…花白」


「何?玄冬」


「いい加減…離れないか?」


「…やだよー」


玄冬を前からぎゅっと抱き締めるように抱き付きながら僕は答えた。それに対して呆れたような溜め息が上から聞こえる。


(温かい)


この寒い場所で、
唯一温もりが感じられる。



「…花白」


「んー?」



「俺たちは、いつまでここに居ればいいんだ?」



「………」



「お前…何か隠してるだろ?」



「………」



縋り付くように抱き付いて
見られないように、胸に顔を埋めた



(何も知らないままでいた方が幸せなのに)



「花白」



(どうして、気にするの?気にしないで…お願いだから)



「花白っ…!」



「…っ、終わったんだ!」



「……?」



玄冬の呼び掛けに花白は思わず声を荒げた。



「もう…何もかも終わったんだ…お願いだからっ、もう何も聞かないで…側に、僕の側にいてよっ…」



「………」




声を押し殺し肩を震わせて泣く花白に、それ以上聞く事ができなくなった。

そっと背中に手を回して落ち着かせるように優しく撫でる。



「…ヒッ…ク…ッ」



(………)

ふと、見上げた先にある小窓から外が見えた。未だに降り続ける雪と白い空…。






(………本当は、)


分かってた。気付いてた。


(きっと、もう此処から出る事はない事を)


気付いてて、花白を責めた。



(分かっていたのに…)




「…花白」


「…ッ…」


「怒鳴って悪かった」


そういうと首を左右に振る。
そして、"僕も、ごめん"と涙声で小さく返答が返ってきた。

今まで堪えてきた分が一気に流れているのか、未だに泣きやむ気配はない。


「……背中、撫でてるから…泣きたいだけ泣くといい」


「……ぅん」






記憶がなくても、
一つだけ…気付いた事がある

それは…花白が言う"終わった"と言われる事に繋っている気がする。


(それなら…)



もう…"全てが終わってしまった"のなら…



(せめて…)




今在る温もりだけを信じて…




「…側に、いて……玄冬」




この、小さな望みを叶える為に




「あぁ」







いつまで続くか分からない
この、白い箱庭で










end

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