SS

□指触
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 わたしが体験した出来事を少しだけお話させて下さい。
それはまだ学生の頃でした。

通学のためによく電車やバスを利用していたのですが、混み合っている日はよく痴漢されたものです。
わたしの友人も、電車の出入り口あたりに立っていたら降り様に誰かがお尻にタッチして行った、と怒っていました。

 不快感はあるものの、まだその程度なら良かったんです……。
一時我慢さえすれば、まあ何とかなりますから。
ただあの日は何ともならなかったんです。

「ふー、間に合った!」

 荒い呼吸を整えながらわたし達は額に滲む汗を拭いました。
ホームでは“駆け込み乗車は危険ですので……”というアナウンスが聞こえていましたが、補習に遅刻したくなかったので慌てて電車に飛び乗りました。
この時点で違和感に気付くことができれば良かったのですが、わたし達(わたしと友人一人です)は一番近くの座席に座り、冷房のきいた車内で気持ちよくお喋りをしていました。

 今思えばマナーのなっていない生意気な学生だったでしょうけど、当時の自分はあまり客観的に物事を見れなかったので……。
幸い、車内はガランと空いていたので沢山の方に迷惑をかけずに済んだかなっとは思います。

 そこで友人が、いきなりニヤニヤと笑いはじめました。
はじめは訳がわからずにボヤっとしてしまいましたが、目配せされてやっと意味が分かります。
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