「何してるさー?」
時は夕暮れ。水平線の向こうへ隠れようとしている太陽はオレンジ色で、青かった海を同じ色に染めている。本日最後とばかりに輝きを放つそれは、きっと魔力を持っているのだと思う。だって、見てるだけで寂しい気持ちになるのに目を離せない。夕陽にあぶり出された私は孤独だ。ざざ、と音を立てる波さえも私を嘲っているみたい。
「おーい、何無視してるんさ」 「……うっさいな。ひとが折角アンニュイな気分に浸ってるってのに、本当無神経なんだから」 「ぬーがやそりゃ」
よっこらせ、と私の隣に腰かけるのは凛。どさっと座り込んだせいで、少し砂がかかった。本当に無神経だ。お洒落なのは見かけとだけか。
「何の用?」 「ん、やーがここにいるんが見えたやし」 「答えになってない」
そう言うと凛は笑って「細かいことは気にすなー」と言った。細かいことじゃない気もするが、私は彼へ向けていた視線をまた海へ戻した。 さっきよりも太陽が隠れている。全部沈むまで、あと何分くらいだろうか。 私たちの間に会話はなく、風が波を撫でる音だけが2人の距離を埋めている。
「……なぁ」
その均衡を破ったのは凛だった。
「……何?」 「やー、よくこん時間にここにいるよな」 「好きだからね、ここの景色が」 「へー……わんはちぃと苦手さ」 「そうなの」
視線を海へ向けたまま会話する。言葉を交わす間にも、夕陽はどんどん見えなくなっていく。
「寂しくならん?」 「……そうね」
でも、それが好きなの。凛の方を見て、笑う。彼は呆気にとられたような、訳がわからないというような表情。それから、小さくため息を吐く。
「わんには、やーの考えは理解できんばぁ」 「理解してくれなくて結構」 「……やけど」
目を細めて、凛はにっと笑って見せた。
「この海見てるやーは、大好きさー」
彼の金色の髪が、光を反射してひどく眩しい。きらきらと輝くそれから目を背けると、無理やり顔の向きを戻され口付けられる。 唇が離れると、心底楽しそうな笑顔がすぐ近くにあった。眩しいのは、髪じゃなくて笑顔だったかしら。 ぺろりと、触れられた唇を舌でなぞると甘い味。気のせいかもしれない。でも、甘ったるくてちょっと癖になるような、そんな味がする。
「……ばーか」 「お、ツンデレだばぁ?」
彼のきらきらとした頭に拳を落として、立ち上がった。スカートに付いた砂を払う。 目を向けると、太陽はもうすでに水平線の向こうだ。境目の空はまだ、オレンジ色のまま。
さようなら、また明日。 明日も私は、あんたとの別れを惜しみにくるよ。 寂しくて仕方なくなって、大切なひとたちを見失わないでいられるように。 だからせいぜい明日も、頑張って光り輝いてね。
「腹減ったさー」 「ご飯作ってあげようか」 「じゅんにか!?」 「ゴーヤチャンプルー」 「……勘弁」
私の大好きな、彼との甘い時間を大切にできるように。
繋いだ凛の手のひらは、夕陽みたいにふわりと暖かい。
ハワイアンクランチ (甘い時間)
31/love様に提出。 参加させていただきありがとうございました!
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