狭くて、それになんだか熱い……? 寝起きの回らない頭を「?」マークでいっぱいにしながら、私は目を開けた。
「……うわっ」
ばさりと無造作に垂れた青緑色の前髪の奥に、伏せられた長い睫毛。スッと通った鼻梁と、軽く閉じた薄い唇。眼の縁を彩る雷模様の火傷跡が整った顔立ちをよりシャープな印象に引き締めている。
突然に見目麗しい恋人の寝顔が視界いっぱいに飛び込んできて、私は一気に覚醒した。一緒に朝を迎えることは今はもう珍しいことでもなんでもなく、寝顔だって何度も見ているのに、いまだに慣れない。はじめさんの顔が綺麗すぎるからいけないのだと思う。普段はぶっきらぼうで荒っぽい物腰なのに、見た目は人気俳優も裸足で逃げ出すくらい整っているなんてズルいと思う。
とにかくこの心臓に悪い距離から離れようとして──私は身体が動かなくなっていることに気付いた。全身を抱き込むようにはじめさんの手足が巻き付いている。
起きたときに熱いと思ったのは、はじめさんの体温だったのだ。寒い時には一緒に寝ると気持ちよかったけれど、これからの季節はちょっと大変かも……なんてのんびりと考えている場合じゃなくて。
すっかり私を抱き枕にしているはじめさんの腕や足をどかさないと動けないのに、私の力でどんなにもがいても恵まれた体格の彼の身体はビクともしない。こんな至近距離でずっと顔を寄せていたらとてもじゃないけど心臓がもたないのに……!
私がうんうん唸っていると突然、目の前でパチリとはじめさんの目が開いた。キスする寸前みたいな近さで目が合って、火花が飛ぶかと思った。
「……」
「は、はじめさん、おはよ……わっ」
彼はなにも言わずに顔を近付けてくる。びっくりして目を閉じたら、唇にむにっと柔らかくて温かいものが押し当てられた。
キス……されてる……? 予告もなしにいきなりキスするなんて、はじめさんにしては珍しくて……途端にドキドキと私の心臓がうるさい音を立て始めた。
唇から離れたはじめさんの顔がするすると下に降りていく。胸元にはじめさんの吐息を感じて、私の肩がビクッと跳ねた。こんな、いきなり? 朝から? あわてふためく私の胸にはじめさんが顔を寄せて──しかし次に彼が起こした行動は私の予想とは外れていた。彼はぐりぐりと私の胸に顔面を押し付けてくる。恋人同士の色っぽい触れ合いというより、飼い主にじゃれつく大型犬といった様子だった。
「……はじめさん?」
ちょっと思っていたのと違ったんだけど? 戸惑う私の胸に顔を埋めたはじめさんは、再び規則正しく背中を上下させ始めている。
もしかしなくても……寝てる、よね。寝癖がついて広がったはじめさんの髪の毛を撫でてみても特に反応は返ってこない。跳ねた毛先に顔をくすぐられて、こうしているとまるで本当に大型犬が私にしがみついて眠っているみたい、だなんて思ってしまう。
さっきキスしてきた時もはじめさんは寝ぼけていただけだったのだろう。いつもはあんなにかっこいいのに、今朝のはじめさんはかわいいなあ……と、動物の手並みを触るみたいに彼の頭をよしよしと撫でる。こんなに無防備なはじめさんの姿を見られるのは私だけなんだろうな、と思ったらニマニマと笑った顔が元に戻らなくなってしまった。
はじめさんの頭を撫でていたら眠くなってきた。私は素直に睡魔に従って目を閉じる。はじめさんと抱き合いながら二度寝する朝は、最高に気持ちがいい。
爽やか可愛いチョコミントの朝