血脈の狭間
□7 遺伝子は嘘をつかない
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遺伝子は嘘をつかない
第四師団の船と通信が繋がったという報告を阿伏兎から受け、神威は艦橋に向かった。
偶々近くの宙域を航行していてくれて助かったぜ、と阿伏兎は疲れた顔に薄い笑みを浮かべる。
艦橋の人払いはしてあるし、他師団や提督に無用な憶測を与えないため、通信記録に手を加えるという。
任務以外で師団長同士が連絡を取るのは厄介なことらしい。
無論、神威にとってはそんなこと関係ない。ただ自分のやりたいようにやるだけだ。
それが上手くいくようにお膳立てするのは、阿伏兎の仕事。
たまにあれこれうるさいことも言われるが、阿伏兎に任せておけば神威の望む方向へ梶を切ってくれることだけは確かである。
神威は阿伏兎を伴って艦橋の扉を開ける。
「久しぶりだね、宇宙に咲く一輪の花」
『ほとんど会わぬのは貴様が会議に来ないせいだろう、春雨の雷槍よ』
誰もいない艦橋を照らすスクリーン越しに、なにを考えているのかわからない仮面のような笑顔と、遥か高みから見下すような不敵な笑みが対峙する。
「早速本題に入らせてもらうよ。わざわざ連絡とったのは…」
『ふん。想像はつく。那紗のことであろう?』
「よかった、知っているんだ」
『貴様ごときがよくも気付いたものだと言いたいくらいじゃ』
華陀は孔雀の羽の扇を幾度か揺らした。
『那紗はその場におらぬのか?画面ではようわからぬ』
「いないけど……彼女の前でその話をするつもりかい?どうなっても知らないよ」
『指図するのはわしじゃ。さっさと連れてこい』
数分後。
摩擦熱で靴底が焼けんばかりの勢いで、那紗は艦橋に飛び込んだ。
「華陀さまぁあああっ!」
阿伏兎に呼び出され、艦橋に足を踏み入れた途端に、スクリーンに映った華陀の姿を目にした那紗。
師団を離れた寂しさが爆発し、開口一番にそう叫んだのである。
『おい、カメラに近付きすぎじゃ』
「はっ!?す、すみません!」
『どうじゃ、励んでおるか?』
「ええ、それはもう!軽くサバイバルですけど、死にそうにもなりますけど、華陀さまの為にわたしは頑張っています!」
『ふふ。元気そうで何よりじゃ』
「華陀さまぁぁぁ…!」
と、感動の再開を果たしたところで、漸く那紗は気が付いた。
艦橋にほとんど人がいないこと、神威が意味ありげな視線をこちらに向けていることに。