血脈の狭間

□5 誰も知らない虚構
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「うん、そういうのもいいのかもしれないな」

神威が愉快そうに口角を上げる。

「那紗、ウチの参謀に就任してみる?」

「は……?」

まったく予期せぬスカウトにポカンとする那紗。
明日買い物行く?くらいのノリで言われたが、今のはかなり大事な話では。

「あ、あの、わたしは第四…」

「いいっすねそれ!」

おろおろと両手をさ迷わせる那紗の声を遮って、神威の部下たちは興奮気味に目を輝かせた。

「那紗だったら俺らの戦闘の足手まといにはならねぇし」

「そういや阿伏兎さんがこの前、指揮官役誰か代わってくれってぼやいてたぜ」

「あの人も本職じゃないからな。その点那紗は……」

すっかりその気になってしまっている。
神威はニヤニヤしながら傍観に徹していて、先程の発言が本気なのかどうかも定かでない。

「や、あのですね、わたしには第四師団がありますから。華陀さまのもとを離れるつもりはないです」

「だったらウチにいる間だけでも!」

「う…そう来ます?困ったなあ…」

「あれ、でも団長、辰羅のやり方ってのは犠牲を伴うんでしょう?いくら那紗が有能でも、そんなん全員が納得しますかい?」

(あ……)

不意の発言にドキリとした。
彼の主張は正しい。辰羅とはそういうものだ。

だが、那紗は違う。死を拒む那紗にそんな作戦は立てられない。

もし仮に第七師団で修行している間だけでも参謀役をすることになったら、辰羅らしくない自分を晒すようなものだ。

絶対に嫌だ。
耐えられない。

テーブルの下、誰にも見えないところでかすかに手が震えた。

吐き気が、する。

「どうっすか、団長」

「うーん……」

と、震える那紗の手が、さりげなく隣から伸ばされた神威の手に包み込まれた。
痛くはなく、けれどしっかりと。
おそらく神威にとっては難しいであろう微妙な力加減で。

はっとして神威の顔を見上げるが、彼は何事も無いかのようないつも通りの笑みで喋り続けている。

「それもそうだネ。じゃあ諦めよっか。いい人材だと思ったんだけど」

「……!」

守ってくれた。
誰も知らないところで、那紗の心を。

手の震えも不快感も、まるで触れられたところから吸い取られるように消え去っていた。



得体が知れない上にことあるごとに弄ばれて、弱みも握られ一時はこの上ないほどの恐怖を感じたというのに。

ここぞという時には味方してもらえるものだから、戸惑いと、僅かな期待を抱いてしまう。

信頼してみても、いいのだろうか。
















20110417
神威さんはなんでもお見通しです

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