血脈の狭間
□2 手探り
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どこの部屋を与えるかとか、どの程度第七師団の任務に参加するかとか、ここでの処遇について阿伏兎との相談を終えた頃、那紗は突然神威に手首を掴まれた。
「終わったね?那紗、ちょっと来て」
神威は那紗の手を引き、急ぎ足でその場を立ち去ろうとする。
「えっ?あ、阿伏兎さん、それではよろしく!」
早口で告げた言葉は届いたかどうか。
一体何の用があるというのだろう。煮るなり焼くなり…を実践されるのか。それとも、今朝起き抜けに蹴りを仕掛けたことで案外機嫌を損ねていて…?
勝手のわからない船の中を歩き回されている間、悪い想像ばかりが那紗の頭を占めていた。
連れ込まれたのはそれなりの広さのある一室だ。
ベッドや本棚、ソファなどの調度品からすると、個人の私室のようだ。おそらく神威の。
那紗を部屋に放り込んだ神威は、扉の前に立っている。那紗を逃がさないためだろうか。
背に悪寒が走るほど不気味な笑みを浮かべ、神威が口を開く。
「あんたにとって話したくないことを尋ねるかもしれない。だからわざわざここまで連れて来た。正直に言わないと殺すから」
「ひぃ!絶対嘘つきませんっ!」
「うん。じゃあ訊くけど、那紗って本当に辰羅族?」
「あ、当たり前じゃないですか」
「んー?」
「本当です!」
必死に主張しているのに疑いの眼差しが突き刺さる。
なぜだ。馬鹿力だからか。たったそれだけでここまで疑われなければならないのか。
あまりにも不条理で、神威の前でなかったら泣き崩れてしまいたい。
「よし。ちょっと確認するから」
「…へ?うわっ」
神威はごく自然に那紗の額に手を伸ばし前髪をサイドに払う。
どうやら白毫の有無を確かめたらしい。
そのために近寄ってきた神威から、なんとなく視線を外すことができなかった。
肌が真っ白だとか、まつげ長いんだとか、怯えていたはずなのにそんなことばかり気になってしまう。
「耳は?」
今度は髪をかきあげるようにして普段隠れている片耳を露出させられる。
つい、ビクッと肩が揺れた。
「ちゃんと尖ってる。やっぱり辰羅なのか」
そう言った神威は、おそらく何の気もなしに、那紗の耳に触れた。
「きゃわっ」
途端、ゾクリと皮膚が粟立つ感覚。つい声を上げてしまう。
すぐさま手で口を覆うが、神威はいたずらっぽい笑みを浮かべ、見逃すつもりはないようだ。
「あはは。どうかした?」
「ひあっ!」
耳の先端をやんわりと指で挟まれて軽く擦られ、また身体が跳ねた。
全力で拒絶し逃げ出したい。しかし今、那紗の命は神威の手の平の上にある。
恐怖感から抵抗できず、那紗はむず痒い感覚に耐えた。
「あの、耳…やめ……」
声が震えそうになるのをなんとか抑える。
「なんで?」
「く、くすぐったい……です……」
神威はクスクスと笑う。
ようやく耳が解放された。那紗はバッと神威から離れて身構える。
だが、神威はそれ以上なにもしてこない様子だ。
「ま、このくらいにしておいてあげるよ」
那紗に逃げ道を与えるかのように扉の前から少しずれる神威。
これ以上この場にいてはいけない気がする。一応の礼儀としてペコリと頭を下げ、那紗は部屋を飛び出した。
身体が熱い。
20110308
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