血脈の狭間

□1 事変の朝
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事変の朝



身体を揺り動かされる感覚に那紗は薄く目を開けた。ぼんやりする。まだ頭がうまく働いていない。

「あ、起きた?」

頭上から聞こえた言葉の意味は頭に入らず、声はただ音としてのみ聞こえた。

視線を上に向ける。ぼやける視界の中に見慣れない暖色の色彩。

そこで那紗の意識は半覚醒から一気に引き上げられた。

「何者っ!?」

床についた両手を軸として放つ変則的な回し蹴りが鋭く宙を薙ぐ。

「へえ。やるぅ」

並の相手なら対応できないはずだが、目の前の男は口笛吹きつつ余裕で身をかわした。

那紗は脚を振り抜いた勢いで立ち上がり、低く腰を落とす。

「如何にして侵入したか知らんが、もはやこれまで!怪しい奴め、命の保証はせんぞ!」

「俺にしてみりゃ怪しいのはあんたなんだけど」

「戯言を!貴様、此処を何処と心得る!此処は……」

言いかけて、那紗ははたと口をつぐんだ。

雰囲気から、春雨母艦内のドックだとはわかる。しかしいつも使っているものとは若干異なるし、目の前には見慣れない船。

「ここ……どこ?」

三つ編みの男はやれやれと肩をすくめる。

「第七師団の船の停泊所。さっき来たらあんたがここに倒れてたってわけ」

「え?え?第七?だってわたし、昨日の夜は華陀さまのお部屋に…」


突然見知らぬ場所にいた自分。そういえば目覚めてからも頭が少しぼんやりする。
一体自分の身に何が起きたのか。

予期せぬ事態に混乱した那紗はゆっくりと昨夜の記憶を反芻し始める。



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