ひがんばな

□一人じゃワルツは踊れない
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最悪だ。今日の客は俺が相手した客の中でも最低最悪な客だ。乱暴に扱われたあげく、口の中で何回もやってくるからさっきまで腹の調子がおかしくて大変だった。起き上がる気力もなく、冷たい畳の上に寝そべってると雲の隙間から月が現れ俺を照らした。

「綺麗、だな…」

白石様と見られたらなんてとんでもないことを考えている。縁側に二人で並んで、餅か何か甘いものでも食べて二人で笑っていたい。手を繋いだり、抱きしめたり、抱きしめられたり。まるで恋人みたいに…。
ああ、何を考えているんだ俺は。目の前にいない白石様を思い浮かべ顔を赤くする俺は末期なんだろうか。

「    」

ふいに白石様の声がした気がした。鉛のように重かった体が嘘のように軽くなった。障子を開け、垣根の隙間から声がするほうへ向かう。聞き覚えのあるあの声。やっぱり白石様だ!垣根が終わって白石様の顔が見えた。だが、言葉として声になろうとしていたものは全てなくなっていた。目の前の光景に愕然とした。

妖艶な笑みをたたえ、周りはべらせた女たちと歩く白石様。

分かってた。分かってたはずだ。でも、辛い。現実から逃げていた分だけ辛かった。
俺はその場に座り込んだ。久しぶりに大声で泣いた。



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