ひがんばな

□惑星のカケラは夜空に消えていく
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俺は体を売るこの商売から足を洗った。そのかわりに白石様の身の回りの世話をするという名目で白石家に奉公にあがった。広い屋敷だから仕事はかなり大変だし、身分をけど白石様の傍にいられる、それだけで幸せだった。昼間は主人と奉公人。そして夜は恋仲となる。白石様の手が目が声が俺を包みこんで、愛してると優しく言ってくれる。今まで幸せなんて感じたことなかった俺にとって白石様がくれる幸せは大きくて。




雨が降ってるせいか肌寒かった。雨が降りだす前、白石様は用事があると言い、傘を持たず出かけていた。白石様に傘を届けるため俺は雨の中を走っていく。ねずみ色の景色に濃い緑が見えた。駆け寄り、確かめてみるると白石様だった。白石様の名を呼ぶけど返事はない。

「白石様…?」

「……」

「白石様、風邪を引きますよ。」

だから傘の中に、冷たい。そう思った。一瞬何が起きたのか分からなかった。でも確かに俺の背中には白石様の腕が回されていて。

「白石様?」

「…今だけ…今だけは、こうさせてや…」

「…何が、あったんですか…」

「明日ここを経つんや。…俺も……お国のために働く時がきたんや。」

分かってた。いつかこの日がくることを。でも、でも悲しくて涙が止まらない。言葉が出ない。俺たちはただ互いを確かめ合うように強く、ただ強く抱きしめあった。



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