ひがんばな

□きっとそれも誰かの残像
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賑わう街の中、ガヤガヤするこの世界に俺は溶け込んでいるみたいだった。軽快な祭の音色に俺の心も弾んでいく。空には綺麗な色の花火が次々に打ち上げられていて、心のわだかまりもいつの間にか消えて、今はただこの雰囲気を謳歌したいと強く思った。しばらく行くと道が開けて、河原が広がっていた。ふと、周りにいる恋仲であろう人たちを見て心がズキンと痛んだ。瞬間的に脳裏に今までのことが思い出される。まだこんなにも俺は、と自嘲気味に笑みを浮かべながら花火を見つめていた。




祭もそろそろ終わりなのだろうか。花火がいっそう盛大に上げられる。さて、帰ろうかな。帰りたくない、と一瞬思った。思ったけども今の俺にはあそこしか居場所がないんだ。花火に背を向け、帰ろうとしたとき視界に見覚えのある服が見えた。あれは軍人さんたちが着ている軍服。何か、本能的なものが逃げろと叫ぶ。瞬間、その軍人さんが振り向き目が合った。あ、と声を上げたと同時に俺は軍人さんに背を向け走り出した。あの人は白石様の側近の財前様だ。全力疾走してるつもりだけど、軍人さんに勝てるわけもなくあっという間に距離を縮められ腕を捕まれた。

「は、離してください…!」

「嫌や。離したら自分逃げてまうやろ。それより、自分に頼みたいことがあんねん!」

「頼み…たいこと?」

「…白石様のことや。」

白石様。その言葉を聞いた瞬間、心がぎゅっと締め付けられたような痛みが走る。何故だか不安が込み上げたが表情には出さないよう理由を問うてみた。

「…え?」

信じられない。それしか出てこなかった。財前様はまっすぐに俺を見つめている。体は自然と財前様と同じ方へと向かっていた。
空は真っ暗になり、いつも通りの静寂が訪れようとしていた。



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