ひがんばな

□忘れないで忘れないから
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もう、どれくらい時間が過ぎたのだろうか。小屋には誰もいない。きっと気が済んで帰ったんだろう。乱暴に扱われた体は言うことを聞いてくれない。糸が切れた人形のように動かない自らの手を見つめる。アイツらの汚い精液がべったり付いてる。汚い。汚いよ。吐き気がするくらい汚い。帰りたい。帰って早く洗い流したい。動かない体に鞭打って起き上がろうとするけど足がもつれて転んでしまった。何処かに体をぶつけた。それを何度か繰り返して、やっとの思いで立ち上がり、俺はフラフラと歩き始めた。




気づいたら、家にいた。体は相変わらず痛みと精液まみれ。これ以上動く気力なんかなくて、俺はその場に倒れ込む。開けっ放しの障子の先には真ん丸の満月。

「…綺麗だな…久しぶりに見た気がする」

月なんてまともに見たことなかったっけ。もっと別の時に見たかったな。ふと、視線の先に裁縫で使うハサミがあった。すっと伸びていく手はそのハサミを握りしめる。ああ、これで腕を刺せば死ねるだろうか。死にたい、死にたいよ。どうして?ただ人を好きになっただけなのに。腕に痛みが走る。ぱっくりと開いた傷口からは勢いよく血が流れ畳が赤く染まる。薄れゆく意識の中、浮かんだのは貴方の笑顔。


さようなら、白石様。
大好き。



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