ばさらしょーと

□ある夏の昼下がりに
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「…で、足音のする方を見たのでござる」

「それでそれで?」

「するとそこには、先程見かけたおかっぱの女子が血まみれで走っておったでござるよ」


「…………うそくせぇ」




ある昼下がりの井戸端




「なんだよ政宗せっかく盛り上がってきてたのに」

「うるせぇ。幸村の話し方が下手なのが悪いんだ」

「佐助…政宗殿が某をいじめる」

「よしよし。あーあ、旦那泣かせんなよなー政宗最低」

「泣いてないだろ。なんだよ俺が悪者みたいじゃねーか」

「旦那泣かせるからだよ。これでも旦那頑張ってたのに」

「…佐助、フォローに本音がチラリズムしておるぞ」

「ゆっきー、なにその日本語?」



連日の猛暑に何もしないのに滴る汗
そろそろ30℃を越さない日の方が騒がれ始めるんじゃなかろうかなんて思う

ただでさえ気温は高いのに、アスファルトの塊である馬鹿でかい校舎は、容赦なく日光を照り返し、景気よく体感温度を上げていくんだからホントに勘弁してほしい


しかも今は夏休みの宿敵の1つ、楽しい楽しい補習の真っ只中。テンションは下がる一方である


事の発端は数十分前、補習も終わり何をするでもなく空調の切れた教室に残って井戸端を始めたことからだった





「何で補習終ったらクーラー切れちゃうんだろ」

「経費削減以外の何者でもねーよ。あの魔王もああ見えて倹約家なんじゃねーか?」

「いや、理事長は絶対金遣い荒いよ。理事長室の椅子とかカーテンとか見たことある?」

「そんなに高いのか?」

「うん。機能性最悪なのにブランド物だった」

「why?!なんでカーテンと椅子?自己主張するとこ間違ってねーか」

「でしょ?あれ売ったら絶対空調費くらい賄えるのに…時間が来たら強制終了てどんだけ理不尽?」

「職員室は涼しいんだろ?」

「すっごいよ。寒いくらい。」




政宗と佐助は暑さによるイライラの矛先を、すっかり空調の集中管理システムに向けて話し込んでいる

あと数十秒したら確実にそれを壊す計画を練りはじめるだろう

学校のトップは魔王織田だから、まず計画だけで終わるのは自明だろう

入学したと同時に設置された空調の存在は非常にありがたい
が、2人の気持ちは痛いくらい分かるから応援くらいはしとこうか




そんな唯一動く扇風機の音だけが響くローテンションな教室で、まだテンションを保っている慶次が提案したのは

怖い話をして体感温度を下げよう、という全くお金のかからないクールビズだった


一蹴して流されそうだった提案は、あまりにもすることがなく暇だったのと、本当に体感温度は下がるのかという地味に気になる探究心に支持され、可決された



そして冒頭に戻るのだ



「ゆっきーの話終っちゃったねえ。次我こそはって奴いる?」

「俺が話してやろうか」

「政宗殿は話のあい間あい間に英単語があってややこしいので遠慮する」

「喧嘩売ってんのか?」

「今は放課後であって英語の時間ではない故」

「上等じゃねーか」

「まーまー。じゃあさ、俺が話そうか?」

「慶次は途中で話が物語中の女の子についてに脱線しちゃうじゃん。全然クールにビズできないよ」

「佐助も日本語どうしたの?」

「え、慶次知らないの?流行りの日本語崩し」

「いつ流行ったんだよ」

「たった今」

「そんな一時のマイブームまでは押さえられないよ」

「えー…慶次、これくらい押さえてなきゃアイデンティティ保てないよ?」

「俺のアイデンティティってそんなにハードル高いの?」

「当たり前じゃん。それが慶次だよ」

「え、………嘘」

「Hey,お前らいい加減帰って来いよ」


進まねぇ、と政宗がうんざりしたように言った

こんな調子でもう随分前から井戸端は脱線に脱線を重ね、なかなか本題通りにゆかず、一行は未だにクールにビズできずにいたのだった


「んー…どうする?俺が話そうか?」

「…え………佐助がか…?」

「せんせー!ゆっきーがクールにビズを達成しましたー!つかもう既にがくぶるなんだけど」

「What happen ?!」

「お、俺は聞かぬ…佐助の話はシャレにならぬくらい怖いのだ」


佐助の恐い話は、幸村にとってトラウマ以外の何でもないらしい

さっきまで扇風機じゃ間に合わないと下敷きをパタパタさせていたのに、今は心なしか震えているようにも見える



「Ha!それが目的だろうが」

「そう思うのなら聞いてみればよい。俺はここで音楽でも聴いておることにする」

「あーあ。ゆっきー離脱」

「えー旦那聞かないの?……じゃあ始めるよ?」




***




佐助が口を動かし始めてから随分な時間がたった、気がする


イヤホンを着けて机に向かう真田以外は皆、佐助の世界に引き込まれていた


佐助ワールド恐るべし、である


「「…………」」



「……でね、その子に被せてあった布を取ったの。そしたら誰かの大きな悲鳴が」

「てめぇら、いつまで居座るつもりだ!!」
「「うわぁぁあぁあ!!!!……………あ?」」



「なんだ小十郎か、驚かせんなよ」

「ホントだよびっくりしたじゃん」


「それはこっちの台詞だ。なんで戸開けただけで叫ばれるんだ」

「や、諸事情で」

「先生なんてタイミングに来るの?せっかくいいとこだったのに…」

「………は?」

「「(……………小十郎登場のタイミングも計算とか言われたらどうしよう恐い)」」

「何の話だ……それより、そろそろ荷物持って出ろよ?完全下校になるぞ」

「え、嘘…もうそんな時間?」

「おい猿、何時間話してたんだ」

「一刻半だよ?」

「わざわざ古風にいうな!」

「いいじゃん…あーあ、全然話し足りないなぁ。」

「もう十分だよ」

「まあ100も話す時間も蝋燭なかったし、しょうがないか」

「…………What do you want to say?」

「どうせやるなら百物語したいじゃん?」

「「?!!」」

「あ、そーだ!今日みんなで誰かん家に泊まらない?そこでやればいいんだよ百物語」

「どこ泊まるんだよ」

「できれば旦那の家がいいなあ」

「俺を巻き込むな」

「つれないなぁ」

「つかなんでお前はそんなに生き生きしてんだよ」

「昔っからこういうの大好きなんだよねー…あ、じゃあ慶次か政宗の家はどう?」




「「勘弁してくれ!!」」

(百物語やんなら猿の家でやりゃいいだろ?!)

(えーだって、ホントにあちらの方々が出てきたら恐いじゃん。もう自分の家に住めなくなる)

(俺らも同じだよそれ!)

(俺はあちらの方々よりもてめーの方が恐ぇえよ)








***



佐助に恐い話をさせたら、昼寝もできなくなりそう
もちろんお風呂にもトイレにも行けない。誰か手つないで。



ちなみに幸村は佐助が話し始めた頃に会話からログアウト

大音量で音楽聴きながら宿題やったりやらなかったり

幸村がログアウトしたのはちっさい頃から佐助に(無理矢理)聞かされてたから

「やだやだやだやだいやでござる!!」

「昨日も聞いたであろう!もう聞かぬ!」

「えーいいじゃん聞いてよ」

「そーいや、きのう話した女の子がだんなに会いたいっていってたなぁ」

「わぁぁやめてやめて聞くから!」

佐助は恐い話に出てくるあの子と友達だからとか何とか言って聞かせる





ちなみに百物語について

蝋燭百本に火を付けて、怪談が一話終わる度に1本ずつ消していく
それが全て消えて真っ暗になると、妖怪が現れるとされる






 

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