ショウセツ


□白に浮かぶ記憶
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手帳の空欄を指でなぞる。
この日はあの子と買い物に行った。
ヒールのある靴を履いていたせいで、次の日腿の付け根が痛かったな。

この日は生理が始まった日。
鮮やかな鮮血が身体から流れ出るわけではない。
赤黒くてドロドロしたものが身体から排出される。
改めて考えてみるとグロテスクな生理現象だ。


自分の記憶を掘り返し、過去の自分を手帳に記す。
可愛らしいクマのキャラクターが描かれた手帳が黒で埋まっていく。


この手帳を見た人は、私を幸せだと思うのだろうか。

黒に染まる私の過去はありきたり。
けれどもそれを人は充実した人生だという。





この日は何をしたんだっけ。
手帳の白を見つめる。
どうしても思い出せない。


きっと何もしなかったのだろう。
家から一歩も出ず、布団にくるまりながらマンガを読む。
空腹を満たすだけの食事を採る。
少し温いお風呂に身体を浸す。
無駄に長い睡眠をとる。

そんな平坦な1日。
けれども精神的にはとても充実した1日だった。



手帳の空欄を白のままにした。


なにも記さないのは、なにも意味がないことではない。

そう思うと、その空欄が愛おしくなった。





白に浮かぶ記憶



それは評価されない幸せな思い出
 

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