ショウセツ
□炉心融解
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携帯電話のライトは眩しすぎる。
部屋の電気を消して携帯をいじる深夜一時。
「今日は終業式でした:)
今日で2年2組のメンバーともお別れだね…。
みんな一年間ありがとう。
すごく楽しかったよ!
3年になっても仲良くしてねーー…」
カチカチと携帯で文字を打つ。
明るい画面のなかに浮かびあがる文字。
この一年間を思い返し、物悲しい気持ちになる。
確かに、2年2組で過ごす日々は楽しかった。
いつも友達とばか騒ぎしていた。
バイト先で知り合った彼氏とも順調に交際を続けている。
遠足や体育祭、修学旅行も高校生らしい生き生きとした時間を過ごした。
でもいつも頭の隅は冷めていた。
楽しい思い出を日記に書き綴りながら、眉を顰めた。
なんで私はホームページなんて更新しているんだろう。
「琴音はホムペとかやってないの?」
「えー、やりなよ!」
「私のホムペのアドレス後で送っておくね」
そんな風に言われたのは確か、窓から見える桜が散っている季節。
落ちる淡いピンクの花びらを見ながら自分のホームページを作ろうと思ったんだっけ。
でも本当は画面上の付き合いなんてどうでもよかったのだ。
友達が笑う時に見える歯茎とか。
おっきくてゴツゴツした彼氏の背中とか。
燦々と照らす太陽の下で、みんなで声をあげて応援練習をしたときの喉の痛みだとか。
私にはこっちのほうが大切なのに。
人と違うのが怖い。
だからみんなと同じスカート丈で、ありきたりな黒のカーディガンを羽織って学校に通った。
みんながやっているから、ホームページだって毎日更新した。
「つまんないな」
そう呟いてみた。
どこからも返事はない。
そのことに少し安心する。
だってその一言をネットに流したら、同じクラスのあの子が必ず返信してくれるでしょう?
いつだってネットには私を見ている人がいる。
日記を更新し終え、携帯を閉じた。
真っ暗になる部屋。
私を見ないで。
私にかまって。
二つの思いが胸の中で黒い渦になる。
ぐるぐると渦巻くそれに、いっそ溶けてしまいたい。
炉心融解
核融合炉にさ、飛び込んでみたいと思う