短編‖
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【2010:三月】
電車特有の揺れに身を任せ、深い様な浅い様な眠りの中を浮いたり沈んだりしていた
「璃音、もうすぐ着くわよ」
それでも母親の一言ですぐに目を覚まし、けれどぼんやりと覚醒仕切らないのもうたた寝故か
「もうすぐ着くわよ」
「…………うん」
右隣にはお母さん
その隣では書類を読むお父さん
左隣には兄さんがいる
兄さんはもう目を開けていたが、眠気が残ってるのかどうかも分かりにくい無表情
「…薙と璃音には言ってなかったな」
不意にお父さんが書類を仕舞い私達兄妹に顔を向けた
「皆が引っ越すマンションの管理人さんなんだがな」
私達は今日、新しい家に引っ越す
初めての事ではない
両親の仕事都合でもう何度も引っ越し、その度に友達や知り合いと別れた
今回だって、一、ニ年経ったらまた引っ越してしまうそうだし
…お父さんもお母さんも悪くはない
むしろ全国を駆け回って働いてくれているのだ
責められる訳がない
(……)
でも
せめて夜、寝るまでには帰って来て欲しいかな…
「分かったな?」
「、!」
「璃音?」
「ぁ、うん…大丈夫」
どうしよう…聞いてなかった
兄さんの方をチラリと見ると、妹の様子を察して苦笑し(大丈夫だよ)と肩を竦めた
気にする程の事でもなかったのかな
*****
【某都:駅】
『駆け込み乗車はご遠慮ください〜……』
「うわぁ〜…」
降りた駅は屋内で、どこか外国の様な雰囲気を思わせる作りをしていた
天井に絵が描いてある
「璃音」
「あっ、ごめん」
慌てて三人との距離を詰める
「駅からマンションまではそう離れてないから、歩いて道を覚えるぞ」
お父さんの提案にお母さんは無言で、兄さんは頷いて、私は返事を返して答えた
「すっかり遅くなっちゃったわね」
「出掛けに色々とドタバタしたからなぁ」
「…ねぇ兄さん」
両親の三歩後ろを歩きながら隣の兄さんにこっそり聞く
「…何?」
「お父さん、何て言ったの?」
「あぁ…」
ケータイを覗き、また仕舞う
「管理人さんに失礼の無い様に ってさ」
「ぁ、そう」
引っ越し先のマンションはお父さん達が決めて、下見も大きい荷物の運び込みも私達は関わらなかったからマンションも管理人さんも初対面だ
……どんな所なんだろ
そうして駅を出て、道路に面した所に降りた時
「霧亜さーん?」
「!」
突然苗字を呼ばれた
女の人の声
しばらく四人で辺りを見回していたが、お母さんが近付いて来る人を見つけて笑顔になり、歩み寄った
「狩野さん!」