短編T
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【マンション“Nap":愁の部屋の前】
ピンポーン
「……」
ピンポーン
「…んー…」
電話しても出ない
ノックしても返事無し
けれど何か音楽は聞こえて来る
そしてチャイムを鳴らしても応答無し
(つけっぱなしで出掛けたのかな…)
一度気になると頭から離れない
私は(人に見られたくなくて)あまり使わない様にしている彼の部屋の合鍵を取り出した
*****
【愁の部屋】
(やっぱり)
目の前にはソファーの端っこに座った部屋の住人
その耳に掛かったイヤフォン
そのイヤフォンのプラグが抜けたコンピューター
そのコンピューターからは音楽がだだ漏れている
音楽を聴いてる内に寝入り、背もたれに寄り掛かった弾みでイヤフォンが抜けた
そんな所だろう
(えーっと…)
コンピューターの音量を下げて連続再生をストップ、クローゼットから肌掛けになりそうな物を出して彼に被せ、私は隣に座って持ち込んだ文庫本を開いた
イヤフォンは外した拍子に目を覚ましそうだからそのまま放っておく
「……」
すぐ隣にある彼のこめかみに自分の頭を軽く当ててみるが、一人で勝手に恥ずかしくなって一人分間隔を開けて座り直す
外は相変わらずの雨模様である