短編T

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ベンチが一つ

男が一人

女が一人


とても、幸せそうで










     夢現つ










「………」





……では、ないらしい


昨日、朝の8時にセットした目覚まし時計は日曜日の11時過ぎを指していた


止めた覚えはない

止めたらそのまま起き出す性分だ




上体を起こし窓から外を見る


少し強めの雨


窓を少し開ける


雨の音しか聞こえない


風が入る



(…あれ…)










男と女が、ベンチに座っていた










「おはよ」


そう言えばいないな、と思っていた“彼女"が台所からから来た


「…、おはよ」


…時計を止めたのは彼女の仕業か


「昨日やっと一段落したんでしょ?仕事」


手には揃いのマグカップ


「こうでもしないと寝てくれないからね、君」


夜は絶対に寝てくれないし?


彼女には似合わない皮肉っぽい笑顔で目覚まし時計を示した


そりゃ確かに昨日も……



「……」


違う





昨日は……しなかった





始まりの合図に深く口付けようとしたら、やんわりと右手で口を被われた

苦笑しながら


『ごめん、ちょっと無理』って
顔だった

どこか、いつもと違った


諦めて額に軽く唇を当てた

また苦笑された


『ごめん、ありがと』って顔だった


そのまま、抱き合って寝た






「起きてるの?」


「……あぁ、うん」


「置いとくね、コーヒー」


「あぁ」










男と女は、幸せそうに寄り添っていた












「……まだ眠い」


チェストからカップを取る

程よく温かい

彼女がベッド脇に座った

ベッドが少し軋んだ


雨の音しかしない



「…どっか行ってたの?」


パジャマでも部屋着でもなく、きちんとした服装の彼女に聞く


「んー、ちょっとね」


何でもないみたいに言いながら
砂糖壺からカップへスプーンを移す





「……」


…彼がぼーっとするのは昔からだし、そんな時に彼女を眺めるのも習慣となった訳で


ハイネックのセーターにかかる茶髪

小さな飾りを付け慣れた耳

艶のある唇


銀の輪を抜ける薬指





雨の音が静かだ
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