短編T
□3
2ページ/8ページ
【月光館学園:2ーF】
「おーっす、寝坊ッチ」
「うっさい順平」
「ぃってぇ!?」
何とか間に合った…
「あだだだ…しっかしゆかりッチにしちゃ珍しいんじゃね? 寝坊するなんて」
「…疲れてたのよ」
そう言えば、順平とはいつから知り合いだっけ?
まぁ友達?のままだから続いてる仲だしね
それでもそんな奴、他そうそうにいないけど
「あいつからのメールでも起きないなんてよ」
「メール?」
「あぁ、出掛ける間際にあいつが送ってた」
親指で指した順平の背後には机に突っ伏して眠る彼がいた
「うっそ…!?」
ケータイを開くと確かに彼から一通届いていた
着信時間は…
(やば…)
目覚まし機能が絶賛フル稼動してた時のだ
「教室に着いても返事が無かったからふて寝しちったんじゃね?」
寝てるのはいつもの事と思うが
「……」
自分の席…彼の前の机に座り、ある程度荷物を整理してから振り返る
組んだ両腕を枕にまだ寝ていた
朝のホームルームまであと5分
(……起こすのも悪いか)
伸ばしかけた手を引っ込め、また体を前に向ける
そして付箋を取り出し、朝の事を詫びる言葉を書き彼の机に貼った
順平が覗こうとしたから蹴り飛ばした
「伊織ぃ、朝っぱらからうるさいぞー」
鳥海先生が来て、後ろの彼が起きた気配がした
……あ、また寝た
*****
【一時間目】
「キヒヒヒ…何の因果か、一時間目の授業はこの私が南極から始まるとされる世界の終末の予言についてお話する事になりました…」
頼むから帰って下さい
「予言によれば、その日南極に漆黒の半円球が出現し…」
次の時間の予習やろ…
コロッ
「?」
江戸川先生がヒステリックにチョークを黒板に叩き付ける様に使い始めた直後、後ろからエンピツが飛んできて私の肩越しに机に落ちた
頭のには見慣れた付箋がついている
見ると、私の謝罪の下に『どうでもいい』と書いてある
(…どっちの意味で?)
苦笑いものだ
怒ってる様にも許してる様にも、あるいは本気で興味が無さそうな返事だ
…多分三つ目ね うん
そんな事を思いながらも何気なく付箋を裏返す
当然何も書いていない
「……」
そこに短く
『放課後暇?』と書き加え、またエンピツに付けて後ろに返した
一瞬振り返った席で彼はまた机に伏せていた
「とある国のある機関では、その内部を調査すべく調査隊を編成していると聞きますが……」
返事は早かった
二つの意味で
『放課後暇?』に対して『いいよ』である
(…デート…)
ハッキリとした告白と、それに対する返事があったのは昨日
その相手同士で遊ぶならまごう事なきデートである
となれば、もっと緊張してもいい様なものだが、それ程でもない
もちろん楽しみにしてるしワクワクはしてるが思ってた程じゃない
考えてみたら、夏休み以降それらしい事を何度となくしてるじゃないか
…その時は全然意識してなかったなぁ、男と二人で遊んでたなんて
私はクシャリと丸めた付箋を筆入れに押し込み、前を向いた
「まぁ、信憑性も歴史もない依田話ですがね…キヒヒヒッ!」