短編T

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「…………」










「………汗かいたの?」


部屋の扉を開けてすぐ、大きめの(と言うか彼の)パジャマの上着を羽織った彼女がベッドに座っていた


「……起こした?」


「ううん…起きた」


明かりは豆電球のみ


「…布団、濡れちゃったね」


「毎晩の事じゃん」


「変態」


言いつつ、タオルを俺から奪う


「拭くよ」





せめて空気を入れる為にと掛け布団を外されたベッドに腰掛ける俺の体を、隣に座った彼女が拭く


聞こえるのは時計の秒針の動く音と布と肌の擦れる音



「……ねぇ」


仕上げに頭を拭きながら彼女が聞いた





「どんな夢だったの?」



タオル越しに両手が頭を優しく挟む


「……忘れた」

「……」

「本当だって」

「……」

だめだ、騙されてくれない

「……恐い夢だった?」


「……うん」


「そう……ごめんね」


「……寝よ、寒い」


彼女は極自然に上着を脱ぐと床に置かれた自分のパジャマを着ていく


ぼんやりと眺めてる内に、彼女は昨夜ベッドに運び込む直前までの姿に戻った


彼女の返したパジャマの上着は甘い匂いがした



ぐっしょり濡れたベッドは今夜は使えなさそうだから掛け布団を床に敷き、その上横になって毛布を被る


「……ねぇ」

寄り添ってくれる彼女が聞く


「何?」


「…何でもない」


「そう」


「……」


「……」


「…………寝よ」


「うん」


言って、彼女は俺を胸に抱き寄せた


「……柔らかいんですが」


首と頭に巻き付く両腕が俺の顔を上げさせる







「顔洗ってないでしょ?」


………は?


「酷い顔してる」


言いながら彼女の指先は俺の口の端や目尻や頬をなぞる


「みっともない」



そうしてまた胸に抱かれる


途端に、自分が猛烈に疲れていた事に気付く

眠気が押し寄せる














俺が忘れた夜の一つ





END
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