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□死を肯定した少年
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「お前のことは死んだって俺が守るよ」

銃声と悲鳴の交差するこの戦場のような屋敷で、ボスは息を切らせつつも格好よく映画俳優のように私に向かってそう言い、「あ、やっぱ嘘」とすぐに前言を撤回した。一瞬、私は何を言われたか分からず、持っていた小型銃を落とし、目をぱちぱちとさせて、あ。とか、う。とかよくわからない言葉を零した。
だって此処は敵対するマフィアの屋敷で、ちょっと気を抜けば流れ弾が飛んできたり、敵がナイフ片手に突っ込んできたりする色々危ない所なのに、そんなこと言ってていいんですか。


「屋敷に戻ったらまずシャワーな。んで、一緒にいつものリストランテで飯食おう。」


ボス行きつけのリストランテはお洒落で料理もワインもおいしい。トマトとモッツァレラのカプレーゼに野菜のたっぷり入った田舎風の濃厚なスープ。ピザもパスタもドルチェも全部私のお気にいり。仲のいい老夫婦が営む小さな店だった。
思わず「はい」と返事をしてしまった私は、今任務中だということを思い出しハッとしてボスの顔を見た。
しかしボスは笑みを絶やさない。

暖かい唇が頬に押しつけられ、ボスは私の手をとって立ち上がった。



「死んだらお前のこと、口説けなくなっちまうからな?」





死を肯定した少年


例えそれが一瞬でも。





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