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□ Dear my girl
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朝ふと起きると隣に彼の姿はなく、キングサイズのベッドには私だけが一人取り残されていた。
シーツはひんやりと冷たく、彼の匂いだけがそこに残っていて、私は体を少しずらして彼の匂いに体を擦り付ける。



彼が私に黙って仕事に行くのはコレが初めてではない。
一度だけ彼がいつものように黒いスーツに身を包み、お気に入りの黒いボルサリーノをかぶって私の瞼に軽く口付けると静かに部屋を出て行ったのを寝たふりをして見たことがある。

いつもは俺様というか自己中心というか、私には意地悪な言葉を並べるけれど、彼は時々驚くほど優しいのだ。



「……?」



乾いた喉を潤そうと体を起こしてベッドサイドの水差しに目をやると、そこには見た覚えのない小さなメモ書きが残されていた。

歪みのない綺麗な字、見間違える事のない彼の字で、メモには一言だけ短く走り書きがしてある。







『寝顔だけは可愛いもんだな。』








彼らしい文面に私は思わず噴き出した。
どういう意味よ、と本人が目の前にいれば枕なりなんなり投げ付けていたと思う。
しかし、今はその小さな手紙さえも嬉しい。

そのメモを握り締めると、私はもう一度眠りについた。
彼が帰るまでずっと可愛い私でいよう。






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