短編2
□つまりは…
1ページ/1ページ
「リボーンって本命いないの?」
「あ?」
お茶の最中、あたしが何の気無しに質問を繰り出した瞬間、彼の愛銃が火を噴いた。
リボーンは一流のヒットマンである。愛銃は人を撃つための道具に外ならない。
そして、現在この部屋には彼とあたししかいない。よってその銃口はあたしに向けられていることになる。
今の一発は恐らく脅しか威嚇とも言うべき一発で、あたしの耳の横を擦り抜け、後ろの白い壁紙に穿たれた。
次は間違いなくあたしにあの穴が開く番だ。銃口からゆらりと立ち上る煙に焦点を合わせると背中を嫌な汗が伝った。
良かった。下手に反応しなくて良かった。
それにしても、何が彼の気に障ったと言うのだ。ついさっきまでは上機嫌(と言っても表情は変わらないけれど)であたしの話を聞いていた。
愛人が沢山いるリボーンに本命がいるのか、ふと浮かんできた疑問を、ふと口にしただけでなぜ命の危機に晒されなければならないんだ。
触れてはいけない話題だったのだろうか。
だったら、端からあっちこっちに手を出すな!
…とは言えない。まだ死にたくはない。
「帰る」
「は、え?」
「…」
「じゃ、じゃあ見送」
椅子から立ち上がった彼に従い、あたしも立ち上がるとまたも突き付けられる銃口。
自然と両手を高く上げるが、こういう時って声が出ない。口をぱくぱくさせるだけだ。
下手に叫んでいたら、煩いとか言われて鉛玉をぶち込まれてた可能性は高いから、この場合は正しい行動だったに違いない。
あたしより少し高い位置にあるリボーンの顔を見上げた。
端正な造りのお顔はこちらをちらりとも見ない。
代わりに先程よりも近い距離の銃口がばっちりとこちらを睨み付けている。最悪だ。
この顔で一体何人のお姉様たちを騙しているのかしら。この間は凄い色っぽい人を連れていたし、この間はエキゾチックな美人を連れていたし…。
…なんか落ち込んできた。
少し溜息を吐いてもう一度恐る恐るリボーンを見上げると、今度はじろりとこちらを見下ろしていた。なんだなんだ。あたしが一体なにをした。
と言うか、あたしが間違っていなければ、たぶん恐らく、きっとこのヒットマンは拗ねている…。
「あの…」
「段階はそれなりに踏んだ」
「え」
「態度ではいくらでも示した」
「リボーン?」
「その上、言葉がないとわからないって言うのか、お前は」
「…え、えと…なに言って…」
リボーンは大きな溜息とともに銃を下ろした。訳はわかんないけどとりあえず助かった。
理由もわからずに銃向けられるなんて理不尽この上ないけど、ここでこれ以上食ってかかるなんてそれこそ命知らずだ。
あたしは黙って彼の動向を見守る。
あたしが瞳をしばたかせて彼をじっと見ると再度溜息を吐かれた。
「ガキ」
「は?」
リボーンはまたも息を吐いて、あたしに背を向けた。
「帰る…」
ガキと言われた意味も銃を向けられた理由もわかんないし、ムカついたけど、なんだかどうでもよくなってしまった。
だって、あのリボーンの背中が幾分か丸まって見えてしまったんだ。
つまりはどっちもどっち
(なんでこんな女…)
[2009.6.24]