短編2

□地獄の果てまで
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雨。
空は雨。
















地獄の果てまで















雷は嫌いではない。付随して稲妻も。
隊服に付いた露を払いながら沖田はその声の主に訝しげな視線を投げた。
ぽつりぽつりと呟く唇は、確かに意思を以って動かされている。
けれど、身体中の雫はそのままに、視線はどろりとした地面のどこか一点を見つめていた。
雷など、稲妻など見てはいないではないか。
沖田はなにも言わず、頭を少し振って視線を逸らした。
濡れる彼女をこれ以上見てはいけない。少しだけ焦燥感にも似ている。

「雨、止むかな…」

沖田は手を止めて、再び彼女を見た。

「どうだろうねェ…」

今度は空を眺めている。

「雨は」

「嫌いかい」

「ううん…」

雷の音は酷く激しい。

「…今のは近くに落ちたかも知れねェな」

「ホント、凄い音だね」

「雷が遠のいたら行きますぜ」

「うん」

視線が絡むことはない。

「沖田」

「うん?」

「あたし、雨は、特に今日みたいな土砂降りは好きなのよ」

「へェ」

視線が絡むことはない。

「罪が雪(ソソ)がれることはないけれど、せめて血は洗い流されるんじゃないかって」

「…へェ」

「下らないね」

「まあ…」

彼女は少しだけ笑うのだ。

「こっちだって下らねェ…」

「え?」

「いや、行くぜ?」

「…はぁい」

叶うのならば。
もしも、血濡れの自分でも願うことが許されるのならば。
共に地獄の果てまで行こう。
二人、雨に濡れながら、沖田は少しだけ笑った。
酷く下らない妄想だ。




















[2009.5.3]


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