短編2
□忠犬ときどき…
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俺はとことんこいつに甘い。
「ミッチーヒドい」
「…その呼び方すんな」
こいつと俺。喧嘩なんかほとんどしないが、それでもずっと一緒にいればたまにはする。
それも大概すっげつまんねェことで。
今のこいつは頬っぺたパンパンに膨らませて、不機嫌丸出し。あれだ。ハムスターみてぇ。
「ミッチーの馬鹿」
「だからぁ、悪かったって。つーか、その呼び方すんな。馬鹿面思い出す」
「そんなの知らないもん」
「………」
「あたし、楽しみにとっといたのに。チロルチョコのホワイト&クッキー」
「………」
ほら、マジ下らない。
なのに、ほっぺたパンパンのまま、しゅんって擬音がしてきそうなほど俯く。
あーあー。
もの凄い下らないのに、どうだっていいのに、ああ、悪かったなんて思わせるこいつはある意味天才。
「ごめんって」
「………」
顔はちょっと下げたまま、上目遣いで俺を見た。こいつをこんな犬っころみたいに作ったのはどこのどいつだ。
くぅーん、なんて寂しい声が聞こえてきそうだ。
動物愛護精神なんて持ってたか、俺。
「ちゃんと同じの、買ってくるから」
「一緒に…」
「ん?」
「一緒に行く」
ふわふわ、フリフリとしっぽが見えた、気がした。
忠犬ときどき…
「2つ買ってもいい?」
「へいへい」
「あ、あとね、アイスも食べたいの。雪見だいふくとあと、ハーシーズのやつとあと、ハーゲンダッツの新しいの」
「……………」
「あ、あとポッキーとあと、あとね」
間違えた。あれだ。尖った真っ黒の尻尾。
こいつをこんな小悪魔に作ったのは誰だ。
…けど、出来る限り叶えてやりたくなんだよなぁ。
俺はとことんこいつに甘い。
[2008.12.21加筆修正]