短編

□おかえりハニーとか言ってみるのはどうだろう
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家に帰ったら、なんか居た。
おかしい。
私は家庭の事情で高校生ながら一人暮らしのはずだ。
そういう設定のはずだ。











おかえりハニーとか言ってみるのはどうだろう










「た、高杉あんたなにしてんの!?」

「夕飯作ってる」

「ああ、まあそうね」

うん。それは正しいんだろう。
けど、あたしが聞きたいのはそういう事じゃなくて。

「何故あたしん家で、お隣の高杉くんが夕飯作ってるのかな?」

「…ついで」

ついで…。え?なにそれは?
それはアレですか?
俺の夕飯作るついでに、お前の夕飯も用意してやったんだぞってことですか?

「違ェよ!なに人ん家にさも当然みたいな顔して上がり込んでんだよ」

「…だから、夕飯作りに」

ああ、そうね。
ああ、もうコイツ馬鹿だ。
マジで馬鹿だ。馬鹿杉だ。
頭痛い。精神的なアレで頭痛い。

「…どうやって入ったの?」

私がうなだれながら訊ねると、コトコト音を立てる鍋をかき回しながら、奴は制服のポケットを弄った。
そして、んと言ってあたしにキーホルダー付きの鍵を差し出す。
チャラっと音を出し、それはキーホルダーにぶつかった。
…あ、れ?

「ちょ!それ、お父さんたちが持ってるはずの」

そう。あたしの部屋のスペアキーだ。

「お前の一人暮らしが心配だからって預かった」

し、信じられない。
年頃の娘の部屋の合い鍵をこんな男に渡すなんて。
あまりのことにあたしは口をパクパクさせるしか出来ない。
“心配だから”って、その鍵の持ち主がいちばん心配なんだよ!

「味見しろ」

「は?」

ちょっとなんなの?
なんのつもり?
人の話くらい聞けよ!
そう思いながらも、目の前のシチューはえもいわれぬ美味しそうな香りを放っていて、私は引き寄せられるように高杉に近づく。
フーフーしてから、お玉に口を寄せる。
そうだ。コレがマズかったら帰らせよう。
なんて、これだけいい匂いしてんのに、有り得ない、か。
てことは、高杉帰んなくてもいいとか思ってんのか、あたし。

「………」

「………」

あ〜あ。お玉を差し出すときは自信満々だったのに、今はなんて不安げなの。

「………」

「…お、おい」

ほら。
どもったりしてるし。

「おい!なんか言えよ」

これだから、馬鹿杉はほっとけないんだ。

「明日は肉じゃがね、高杉」

「おう」

明日はただいまって言ってみようか。















おかえり。[2008.4.15]


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