短編
□絵空事だとわかっていても
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坂田はさァ、君は、とても自分に正直だから、先生は君のそうゆうとこがとても好きだから、だからそうゆう大人になんなさい。ね?
そう言って、先生はとても綺麗に笑った。
絵空事だとわかっていても
「どっちかって言うとひねくれてるって言われるけど、俺」
「ああ、そっか、うんそうかも」
「…なにコレ、俺、からかわれてんのコレ」
そうしたら、先生は声を出して笑った。
真っ白い歯が規則正しく並んでる。
大きめの口は真横に広がって、それが不思議と上品だ。
「先生、笑いすぎ」
「あ、ごめんごめん。そう言うんじゃなくてさ。
坂田、どんなに周りが反対したって自分が思ったことは曲げないじゃない。
端から見たら、天の邪鬼に見えるのかも知れないけど」
俺は先生が好きだった。
「でも、諦めないって凄いよ、坂田。それって大事だよ」
先生も俺のことが好きだった。
その好きは互いに意味が違ったとしても、俺は全然、構わない。
「だから、そのまま大人になってよ」
だって俺は先生の生徒で、先生は俺の先生なんだから。
「自分を騙す大人になっちゃ駄目だよ、坂田」
「どうかね〜。銀さんすでに大人だから」
先生は小さい声でうん、知ってると言った。
「わかってないよ、先生〜。
なんだったら、試してみる?」
「え〜どうやって?」
「イイコトして」
「セクハラだ。生徒が教師にセクハラだ」
ごめん。先生。
俺は先生が望むような大人にはなれません。
だってもう、自分に嘘をついている。
[2008.04.07]