本棚・弐
□酷花
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酷暑。オアシスは何処に。
酷花
買物に出たら、猛暑の街中ですれ違う人達の浮かれた笑顔が目についた。
鼻の頭の汗を拭いながら通り過ぎる女の子達の、浴衣が可憐にはためく。
……夏祭りって今日か。
いつの間にか過ぎていく夏に、睦実は少し唇を尖らせた。
成績も悪くないし、出席日数はまあぎりぎりだが足りてるのに、補習に出ねばならないのは自分を目の敵にしている教師のせいである。
やっと家に着いて鍵を開けると、ひんやりとした空気が頬を撫でる。
エアコンの冷気が廊下まで冷やしていた。
「…消さなかったっけ?わぁ俺ってば地球に優しくない酷い男、」
まず寝室に入り、汗で背に貼り付く制服を脱ぐ。
「何なんだよ、俺にそんなに逢いたいなら好きって言えばきっぱり振ってやるのに」
…なんてね、と付け足しながら教師への不満もそこそこに蒸し暑い寝室から抜け出して居間へ。
「おかえりィ〜」
「……た…だいま」
クルルが、優雅に浴衣を纏ってソファで寝そべっていた。
「…なんでいつも俺のいない時にばっか来んの…」
「お前独り言多いな」
「…クルルみたいに根暗じゃないからね」